「わたし…零ちゃんとおねいちゃん
すっごくお似合いだと思うんですよねぇ」
んーーーーーーーっ
「ハチミツとクローバー」の、と形容するには時間が経ち、むしろこっちの作品の方が知名度が高くなった漫画達者の作者の、連載開始から11年が経つ情緒的で詩的な現作。
現実世界に藤井聡太という、漫画以上に漫画みたいな若手天才棋士が現れて、嬉しいやら大変やら。
実の家族を交通事故で亡くし、将棋のプロ棋士の家庭に引き取られ、その才能と情熱から実子たちを押しのける形で「棋士の子」として養父の寵愛を受け、史上5人目の中学生プロ棋士となり、一年遅れの高校進学を機に「家族」の空気を読んで隅田川沿いで一人暮らしを始めた少年・桐山零。
母を亡くし父が出て行き、下町「三月町」で祖父の和菓子屋を手伝いながら暮らす川本家のあかり、ひなた、モモの三姉妹。
零のプロ棋士としての戦い、学校生活、三姉妹をはじめとする周囲の人々との交流を描き、NHKでアニメ化もされているハートフルな競技&家族もの。
商店街の看板猫・マニーちゃんの系譜。
川本家でピーナッツの薄皮むき大会。
林田先生と島田八段のハゼ釣り。
「って言うか…島田八段」
「…はい 何でしょう?」
「あかりさんの事どう思ってますか」
零とひなたの高校の文化祭と、零の将棋の弟子・校長や教頭や林田が次々に暑苦しく闇落ちするアマ将棋「職業団体対抗将棋大会」。
自分探し回、バッチバチの将棋回、いじめ問題回、ラブコメ回、家族問題回、
巻によってガラッと色を変える作品ですけど、今回はドラマ抑えめの日常コメディ回。
これまで色々あって、これからも色々あるであろう登場人物たちに訪れた他愛なく刹那的な幸福な日々。
歳をとるとダメですね、こんな抑制的で他愛のないはずの巻ですら泣けてしまって。
零がこんな時間がずっと続けばいいと思うように、読者としてもずっと彼らのお話を読み続けていたいけど、零の高校3年の秋が過ぎていく。
「ハチクロ」以来の作者のファンには嬉しい嬉しいサプライズ付き。これはぜひ、読んでのお楽しみに。