AQM

あ、今日読んだ漫画

#お茶にごす。 1~11巻 【完】 読んだ(ネタバレ注意)

年末年始で新刊が発売されないので、過去に発表された名作を読み返します。
今日は「お茶にごす。」です。

 

「部長。俺、心がナイらしいんです。」
「無いんですか?」
「ナイみたいス。どこで手に入りますか?」
「フフフ。心無い人が悩んだりするでしょうか?」
「あるんですか俺、心!?」
「ハイ、あります」

1988年〜1997年の「今日から俺は!!」でブレイクした西森博之が、「スピンナウト」「天使な小生意気」「道士郎でござる」を挟んで、2007年〜2009年に週刊少年サンデーで連載した作品です。最近の作品のようで、もう10年も前の作品になります。

代表作のとおり、どうしても「悪い奴」をぶん殴って解決する作劇が多めな作家です。反面、特に近作ではセリフを用いず、絵と行間で読ませる繊細な心理描写が特徴です。

今作は、更生を誓う元不良が茶道部に入部して引き起こす、「脱・暴力」をテーマにしたコメディです。
他の代表作と比較して、全11巻でありコンパクトです。連載終了時やその後において、ネットの評論で「打ち切りだったのではないか」と憶測されることが度々ある作品です。

主人公の雅矢は相棒の山田と共に、その中学時代、売られた喧嘩を全部買いました。その結果、その酷薄な無敵ぶりと凶悪な面構えから近隣の不良から「悪魔」と恐れられ、また憎まれています。雅矢と山田は「今日から俺は!!」の最終回の後の世界の三橋と伊藤のオマージュのように見えます。
高校入学を機に暴力の連鎖から離れたいと望んだ彼は、新入生勧誘で声をかけてくれた、温厚な女子生徒ばかりで構成される茶道部に入部します。

作者はこの作品に2人のヒロインを用意しました。

1人は雅矢と同じ新入生の夏帆です。気が強い彼女は、茶道部を守りたい一心で、見るからに凶悪な不良である雅矢に対してとても厳しく接し、彼が無法に暴力を振るうことが無いか監視します。とても口が悪いツンデレさんです。雅矢は彼女を「狂犬」と呼び、恐れます。

もう1人は3年生の茶道部の部長です。良心的であるように育てられた彼女は、凶悪な容貌の雅矢に初めて相対した際に恐怖で足が震えましたが、「他人を見た目で判断してはいけない」という標語を実践するために、勇気を持って雅矢にお茶を勧めました。感銘を受けた雅矢は茶道部に入部します。

2人のヒロインはまるで飴と鞭のようです。また雅矢と部長の関係はまるで孫悟空三蔵法師のようです。またこの作品を通じて、雅矢はまるで「オズの魔法使い」において心を持たないことにコンプレックスを持った、ブリキの木こりのようです。

あまり空気が読めない雅矢は悪気なく、喧嘩を売ってきた不良を殴ったり、いじめを行う不良のバイクにガソリンをかけて燃やしたりします。しかし、茶道部での平穏でコメディタッチな日常を通じて、AIがそれを学ぶように心や優しさを少しずつ学んでいきます。そして夏帆と徐々に和解し、また部長に対して人間的な憧憬を抱くようになります。雅矢はその暴力性を、人助けのための抑止力として活用することで、自分の存在価値を見出します。

部長の卒業を控えた終盤、ある事件を契機に人の心の機微を読むことに突如覚醒した雅矢は、部長と距離を置きます。

「いや、俺 悪に狙われてるし 
 部長が俺の知り合いだと思われたら困るだろ。」

蛮勇だった彼は人の心を手に入れると同時に、臆病さを身につけました。
彼は卒業していく彼女を遠くから見送ることを選びます。

私は最近作「柊様は自分を探している。」を読みました。前述のとおり「打ち切りだったのではないか」と噂される結末は、そういう目で見ると作者の近作の多くがそのように見えます。

私は妄想します。
近作において作者は連載開始時にあらかじめ最終回2〜3話のプロットを決めています。かつ数話の導入で、「通常運転」のどんな状態からでもそのプロットに接続できるようにパッケージされています。残り数話で突然完結することを強いられることがある週刊連載で、責任ある美しい結末を読者に提供するためのシステムです。あるいは「スピンナウト」からの反省かもしれません。
このシステムが残すほんのわずかな痕跡、クオリティのギャップ、不自然さが、作者が描きたいことを描ききった円満なシチュエーションにおいても、鋭敏な読者の感受性に違和感を抱かせるのかもしれません。

今作の終盤の、おそらく互いに惹かれあっていたであろう、逆の意味で浮世離れした彼と彼女の、言葉少ない奥ゆかしい恋愛感情の機微の表現は、作者が描いた多くの作品の中でも、その真骨頂であると私は思います。

彼女の不在からくる空虚さ、そこからスムーズに接続されたラスト2話で夏帆と山田が果たした重要な役割、音もなく散りばめられたヒントと音もなく回収される伏線、想像の余地と余韻を残したパーフェクトなラスト、私はこれが慌てて描かれたものだとは思えませんでした。

もちろん妄想を根拠にした贔屓の引き倒しであることは否定できません。なにしろ私は、この作者とこの作品、雅矢と部長と夏帆と山田が大好きだからです。

 

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