#AQM

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#夜行 下巻 評論(ネタバレ注意)

せめて上巻の表紙を再掲しよう。

申し遅れましたが原作未読です。

泣ける系ラブストーリーみたいな表紙に惹かれて買った、森見登美彦の小説を少女漫画のレーベルでのコミカライズ。

「夜行」と名付けられた連作の銅版画と、10年前に行方不明になった女子大生をめぐり、彼女の当時の英会話スクール仲間たち5人が語る「旅先で人が消える話」の連作。少し不思議、なにか不気味、少々サスペンス、どこか寂寥感。何かがもう手遅れになっているのに、それに気がつけない焦燥感を掻き立てる。

ジャンル分けによって物語の評価が左右されるのは本来おかしい話ではあるんだけど、予備知識なしに読むといかにもサスペンス・ミステリーのように話が進むが「謎解き」を期待して読むと肩透かしを食らう。

他作を見ても作品世界で起こる「不思議なこと」は不思議なままに話を進める原作者で、もっと情緒的な、強いてジャンル付けするなら「不条理ファンタジー」とでも呼ぶべきかね。あと失恋。

上巻の「夜行-尾道」「夜行-奥飛騨」に続いて、「夜行-津軽」の後編、「夜行-天竜峡」、最終話「夜行-鞍馬」を収録。

特にオチもカタルシスもなく一見投げっぱなしのようだった4編に続いて、最終話で作品世界の、「なぜそれが起こっているか」ではなく、「何が起こっているか」のカラクリが提示され、このカラクリによって4編で描かれなかった裏でどんなことが起こっていたかを読者に想像させるつくり。ミステリー的ではある。

最終話のテーマがなんというか、ネタバレしちゃうと魅力半減なお話なので多くは語らないけど、恋した相手との決定的な断絶、疎外、孤独。自分は「銀河鉄道の夜」、「シュタインズゲート」、「ファイナルファンタジー10」などを思い出した。

大切な人との取り戻しようのない別れと、その別れ自体がもしかしたら主人公だけが見た幻だったかもしれないという深い孤独。でもたとえ手の届かないところででも、幸せに暮らしているかもしれない可能性の存在への安堵と祈り。

よくわからないままにハートの深いところがギュッと締め付けられる、大人向けの「銀河鉄道の夜」というかね。思っていたのと全く違うプロセスを経て、結果的に「泣ける系ラブストーリー」という当初の表紙の印象はそれほど外れてはいなかった。

余談ですけど、作画の込由野しほ先生の絵、特に女性の容姿、というかぶっちゃけ顔がとても好みだったので、是非他作も読んでみたい。

「夜の魔性」をテーマにした作品の雰囲気にとてもマッチした作画で、「なんで森見登美彦をこのレーベルでコミカライズなんだろう?」と不思議に思ってたけど、「この人が描くから」だったのかもしれない。

 

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