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#新サクラ大戦 the Comic 1巻 評論(ネタバレ注意)

"太"正29年。

10年前、神宮寺さくらに命を救われた少女・天宮さくら(17)は、帝国華劇団に入団するべく帝都に上京する。

帝国華劇団の活躍によって帝都の平和が守られた「降魔大戦」から10年、平和と引き換えに帝国華劇団は衰退し解散の危機に瀕し、帝都の平和は亜細亜全土を所掌する上海華劇団に委ねられていた。

政府からの華劇団復活の条件は活躍する世界各国の華劇団との2年に1度の対抗演習「世界華劇団大戦」で結果を残すこと。

しかし、帝国華劇団の前に立ちはだかる影があった…

 

自分は旧作・新作含め「サクラ大戦」に触れるのは完全にこれが初めてになります。ので原作ゲームとの比較などはできず、単品の漫画作品としての感想しか書けません。

プロモーションの一環として描かれたゲームのコミカライズにどこまでマジになるか、というのはなかなか難しい問題で、今年のクリスマス商戦に合わせて先日リリースされたゲームのコミカライズが、このスケールの物語がまともに完結できる例えば2年後にまだ週刊ヤングジャンプの誌面に掲載されているかというと、昨今の出版事情を鑑みるに可能性は非常に低く、十中八九「私たちの戦いはこれからだ」エンドで打ち切りになるんじゃないかなと思います。大団円で完結した上に20年以上経って新たに再アニメ化されるようなコミカライズ作品は存在自体が奇跡です。

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展開としては前作の10年後で、前作の登場人物を伝説的に扱える「Zガンダム」的な要素もあり、また往年の「サイレントメビウス」を彷彿とさせる展開もあってワクテカもの。

絵も表紙のとおりとても整っていて、キャラ、メカ、大正風の背景も非常にキレイに描けていて申し分なく、「新サクラ大戦」がどんなゲームなのか非常にわかりやすく表現されています。

が、私が読んで思ったのは「淡々としていて、まるで渡されたプロットをなぞって描いているだけみたいだ」ということでした。多分に精神論的で、またゲームの旧作も新作も知らない者の偏見かもしれません。

時系列的にこの作者が執筆時点でゲーム「新サクラ大戦」をプレイできたはずがないのは自明で、「まだやったことのないゲーム」の作品の熱を漫画で表現しろ、というのはそもそも無理な要求なんだと思います。この漫画は「新サクラ大戦」が好きでしょうがない!という作者の情熱が生み出した同人作品ではなく、セガと集英社という大企業のプロジェクトによって生まれた商業作品です。

 

今年読んだ漫画で、これもやはり集英社で、これもやはり私は未プレイのゲームのコミカライズでしたが、「MIST GEARS BLAST」という作品がありました。

aqm.hatenablog.jp

2巻で打ち切りで「俺たちの戦いはこれからだ」エンド、続きはゲームのサイトで!のひどい打ち切りでクソみたいな構成でしたが、クライマックスに私の心を非常に揺さぶる見開きの大ゴマがあり、

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(「MIST GEARS BLAST」2巻より)

プロが計算してやっていることではありますが、私は今でもこの見開きの絵の存在だけでこの漫画を読んだ価値があった、大げさに言えば「魂の打ち切り」のようだった、と思っています。ここだけは今年読んだ漫画の中でも屈指の名シーンだった。

 

同人作品に対して商業作品が劣る構造的な最大の欠点は「作者がまだ描きたくても商業上の都合で打ち切られることに抗えない」点です。いろいろ制約も多い中の執筆だと思いますが、ゲームが発売され実際にプレイした経験を肥やしに、見る者の心を揺さぶる爪痕を2巻以降で是非残して欲しいし、あわよくばヤンジャンの熾烈な誌面争奪戦を勝ち抜いて、自分の作品として描きたいところまで描けるように奮戦して欲しいと思います。

そう期待させるだけの力を持った原作と漫画家で、プロモーションのために使い捨てるのはちょっともったいない作品だと思います。

ゲーム未プレイでおこがましいですが、編集部もセガも、ある程度は漫画家さんの裁量、「作家性」ってやつに任せてみるのもいんでないかな、と。

 

 

(選書参考)

blog.livedoor.jp