
「この原作を漫画化しようと考えた作家がいるとは想像しなかった。
瞠目する。
原作者の慧眼をもって、酷寒のロシア戦線での
女性の洗濯兵と狙撃兵の異形をあぶり出した辣腕には敬意を表したい。
それを漫画化した作者の蛮勇にも脱帽する。
男性の政治家と経済人たちの必読の書である。
女たちは美しくも切なく強靭であったのは事実なのだ」
(富野由悠季の帯コメントより)
第二次世界大戦・独ソ戦における「戦争と女」をテーマにした作品で、原作はベラルーシ(旧ソ連)の女性ジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのノンフィクション。独ソ戦で赤軍に従軍した女性500人を1978年から1984年にかけて取材、ペレストロイカ後の1986年に出版(日本語訳は2008年)、作者は2015年にノーベル文学賞を受賞。
少し前に「白百合は朱に染まらない」という、本作と同じく第二次世界大戦・独ソ戦を舞台に、女性だけの飛行連隊をテーマにした史実ベースの漫画があって、「こんな重くて暗くて売れなさそうで面白そうなテーマの漫画を許容するなんて、講談社やるなあ」と思っていたら、特にそんなことはなく、講談社が我慢しきれずに2巻で打ち切ってしまった。
面白かったのに期待のハシゴを外されて少々キレ気味な感想を書いたら、
作者の先生の目に留まってしまって、申し訳なかったです。作者を責める意図ではなかった、という言い訳。
本作での戦闘機乗りたちのエピソードは、「白百合は朱に染まらない」でモチーフになった赤軍第586〜588女子飛行連隊と同じ舞台の同じ史実をもとにしてるので、英雄マリーナ・ラスコワ(ラスコーヴァ)や、スターリングラードの白百合と呼ばれたエースパイロットのリディア(リーリャ)・リトヴァクも同一人物として登場。
前述のとおり2巻で打ち切りだけど、こちらも超オススメ。いつかの再開に繋がるかもしれないからお前ら買えよ。
本作「戦争は女の顔をしていない」のコミカライズは「狼と香辛料」を担当した小梅けいと、監修は漫画「大砲とスタンプ」などミリタリーへの造詣のほかソ連ガチ勢として知られる速水螺旋人、帯の推薦文は富野由悠季、と豪華な布陣。


帯を書いた富野由悠季は、ガンダムシリーズなどを通じて「戦争と女」について度々描写してきただけあって、期するものがあるというか、答え合わせのような気持ちかもしれない。
泣いて男を待っているだけの女性像から脱却しようと、戦争もののフィクションに身体能力の劣る女性を、特に兵士として登場させることに70年代から取り組んできたけど、「恋愛要素や萌え要素のための非現実的な『嘘』」である」との見方もあって、必ずしも成功しているとは評価されてこなかった。
本作は原作者が500人の従軍経験者の女性にインタビューしただけあって、フィクションでは中々出てこない当事者視点からの印象的でガツンと重い言葉や描写が、史実をもとに短編オムニバスのテイで続く。登場する女たちは戦争の一方的な被害者ではなく、ほぼ全員が志願して従軍した女たちであることも特徴。戦場で必死に生きる女たちの生き様が悔悟や喪失感、心の傷を伴って回顧される。
作画の小梅けいとは、前々作で中世欧州風の世界を舞台にした少々ややこしい経済がテーマのラノベを完結までコミカライズしただけあって、重たい話をぐいぐい読ませる。油断してめくったそのページで史実の硬さと重さでガツンと殴ってくる骨太で繊細な描写。
「私は嬉しかった 本当に幸せだった
私ができるせめてものことでした」
従軍洗濯部隊の思い出。
「同志元帥!あなたは恋をしたことがおありですか?
あたしは夫を葬るんじゃありません 恋を葬るんです」
共に従軍した夫を戦場で亡くした女。
「仲間の女の子たちは夕食に手をつけようとしない
どういうことかわかって私は涙をためて土豪から出た」
糧食のために仔馬を撃ったスナイパー。
「私を撃ち殺して こんなんで生きていたくない…」
従軍し戦後の日常に戻ったスナイパーたちのその後。
「『幸せって何か』と訊かれるんですか?
私はこう答えるの
殺された人ばっかりが横たわってる中に
生きてる人が見つかること…」
戦場の衛生兵たち。
「水に入ってすっかり洗い落とすまで水につかっていた
破片が飛び散る下で…
恥ずかしいって気持ちは死ぬことより強かった」
従軍と女の生理。
「飛ぶだけではなく女の子たちは敵機を撃墜しました
私たちを見て男たちは驚いていました」
戦闘機乗りたち。
「戦争で一番恐ろしかったのは…
男物のパンツを穿いていることだよ」
従軍カメラマン、機関士、射撃手たちの戦争。
巻末の速水螺旋人の解説によると、独ソ戦における敗戦国ドイツの死者800万人に対し、戦勝国ソ連の死者はドイツの3倍以上の2,700万人。全人口1.9億人の約15%を4年間で喪ったとされる。
「どうして笑わないのさ」
「泣いているのかい?」
「どうして?」
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