「残念ね TVスタッフを連れてくるべきだったわ
なんとしてもこの試合を放送してもらうのに」
「(この試合を見たらみんなフットボールに熱狂するのに…
みんなナンバー8に恋をするのに…)」
高校の弱小女子サッカー部に集った才能たち、という定番ストーリー。
インターハイの裏番組、JKFBインターリーグ決勝、相手は5日間で4戦こなして3日前にインターハイ王者に輝いた興蓮館、のBチーム。のはずが出たがりの主力組が急遽参戦。
王者・興蓮館を相手に、後半残り20分で2-5のビハインド。
今巻で興蓮館戦が決着。
「キャプテン翼」を描き始めた当時の高橋陽一はサッカーにあまり詳しくなく、それ故に独特でファンタスティックなサッカー表現が多用され世界中で人気を博しましたが、この作品は逆に現実のサッカーシーン、チーム戦術、選手のプレイスタイル、プレイスキルなどの流行や、過去の名選手・名場面へのオマージュをふんだんに取り入れて、漫画の媒体でわかりやすく再現。動画じゃなくて絵なんですけど、同じシーン・似たシーンを観たことある読者には作者の頭の中と同じく動いて見える作り。
絵自体は止まってるのでパッとと見、わかりにくい絵もあるんですけど、わずか2コマの間に作者からのメッセージが込められてて、
左足でシュートしたにしてはフォロースルーがなく(だとしたら足を引くのが速すぎる)体の向きもゴールに向かって左斜め前の進行方向に向いたままなので、走りながら着地する右足でそのままシュート、というかエラシコの要領で足首を外に捻りながら右足の甲の外側をボールの下に当てている。
ここで動き直した白鳥がDFの裏に左斜めにオフサイドぎりぎりで走り込むところに
恩田がパスを通して、
普通だとボールに追いついて走ってきた勢いで左足でニアか股下を抜くか
一旦止めて反転して右足の前にボールを置いてニアとファーの二択の選択権を得たいところ、
ニアの低めを第一優先で警戒しながら詰めてくるGKの逆をついて、後ろからのパスの軌道を大きく左に跨いで右90度のファーに右足アウトサイドのワンタッチでGKの頭を越えていくチップキック
って流れをGKとの駆け引き含めて解読して脳内でバーって映像で再生された瞬間の、行間ならぬコマ間を読む快感。イラストじゃない、漫画の醍醐味よね。そのままコーナーフラッグ方面に走りながら両腕を大きく掲げてくしゃくしゃの顔で絶叫してるインザーギが目に浮かぶよう。
ねえ、この絵、要る?
作中ではパスを出した恩田にフィーチャーしてますが、モデルがモデルだけにシンプルなワンタッチの一瞬のプレイながら、前に走りながらほぼ真横にアウトサイドでボールをコントロールする白鳥がちょっとロマーリオ並みの変態なんですけどwwwという反面、リアクションを見るにただ単に左足でボールを扱えなさそうなイメージの彼女の唯一の選択肢で奇跡が起こっただけかもw
サッカー描写そのものは行間を読ませつつ写実的でクールでちょいちょいコメディ描写を挟んでクスッとさせる反面、メンタル描写は「四月は君の嘘」の作者らしく情緒的でいちいちエモく、ツボにハマればとても共感性が高く、平たく言うと毎回なんか泣ける。
サッカーにかける夢とか、積み上げてきた過去とか、闘争心、憧れ、悔しさ、いろんなキャラのいろんな感情が織り込まれて、高校生が部活のサッカーやってるだけの話がとてもドラマティックに。
次巻も楽しみだー。
aqm.hatenablog.jp