「…おかしいですよ…
…理不尽な目にたくさん遭ってきたのに…
こんな国の為にそこまでする必要ないと思います…!
本末転倒です…!!」
「どんなにダメな国でもこの国で育ったんだ、これくらい当然だ…
逆に、お前は一体何の為にその兜を被ってるんだ?
俺にはお前の方がおかしな奴に見える。
穀倉地の時からずっとだ。」
ラジオや映画、自動小銃はあるけど、TVやネットはなく、空軍はプロペラ機ぐらいの時代設定、島国アリストリアが舞台の架空戦記。
大陸政府の支配下で体制側である中央合議会とその正規軍の「島軍」、これに反旗を翻した「解放市民軍」による内戦。都市防衛を第一義とするも島軍に従属する「自警団」。
ヒロインは、島軍と解放市民軍の間で武器商の夫を殺され子を失い、復讐を誓う隻眼の未亡人。秘蔵の狙撃銃で自警団に参加し開花した天才狙撃手。民族間の断絶から終結が見えない内戦の中で、状況に流されながら生き残るために戦うヒロインたち。
見せ場はヒロインの狙撃シーン。局地戦を舞台に劣勢の戦局をチート気味にひっくり返すカタルシスとともに、高性能スナイパーの怖ろしさ、残酷さ、罪深さ、「人間に向けて銃を撃ったら人間が死ぬ」という当たり前のことをこれでもかと描写。
前巻のヒタカ会戦を勝利し凱旋するダシア自警団。戦勝パーティの最中、牧場地帯が解放軍残党の戦車隊に占拠されたとの急報を受け、奪還作戦が展開される。
占拠された牧場はダシア自警団員・騎兵のシュバーハン(ハンゾー)の実家が営む牧場だった…
架空戦記ですが、共に日常を過ごす良き隣人・良き友人たちがシームレスに兵士として戦争の狂気の染まっていく様を丁寧に描写。
1冊で1エピソードが完結。見事な表紙、見事なラスト、見事なタイトル回収。
敵を遅滞させる為に「敢えて射殺しない」狙撃手の習性、人と同じように生命をBETさせられる軍用犬・軍用馬、吹き飛ぶ手指、棺桶と化す戦車など相変わらずえげつない。
戦場で人を殺せなかったキャラが人を殺せるようになった時、果たして我々読者はそれを「成長」と呼ぶべきなのか。
あとがきによると、人間関係構築が苦手な作者が編集との関係の葛藤の末、結局は編集に頼らずほぼ独力で描いているとのことで、そのゴタゴタで発刊も遅れたんだとか。
そのこと自体の良し悪しは自分はわかりませんが、アウトプットは待った甲斐にお釣りがくるような異色かつ見応えのあるエピソード。
次巻もじっくり、楽しみにお待ちしてます。
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