
動物たちと三頭身の小人(こびと)たちが互いに言葉を通じ合って、社会を形成して暮らす童話のような世界観で、一緒に暮らす2人の女の子を主人公にした日常もの。アニメ化済み。
童話やお伽話に喩えるには生活感がありすぎるけど、その生活感の醸し出す詩情、特に手慣れた料理と食事風景の描写は特筆もの。
前巻からきっちり1年後の9巻。
野生のカボチャに愛着が湧いてしまったハクメイ。「カボチャと櫓」。
ジャダが乗合亀車で相乗りになったのは、役者で苦手な旧知のカーネリアンだった。「相乗りとドシャ降り」。
マキナタで休日を過ごすみーちゃんと先輩。「鉄道と恋」。
蜂蜜館、ウカイの13回忌のお祭り。「太陽色の蜜」。
風邪をひいてもジッとしてられないハクメイ。「病床と柘榴」。
ハクメイとミコチ、エピソードゼロ。「出会いと草刈り」。
図書館司書キアン、大工の鰯谷、それぞれの休日。「司書の休日」、「休日と長屋」。
ハクミコハウスに落ちてきた騎鳥便コンビ。「臆病者とズキンガラス」。
料理人ミコチが工事現場と大型獣の集会で腕を振るう。「小さな料理人」、「大きな集会」。
漫画の背景というのは作品十色で、背景を描き込みすぎてゴチャつくと文句を言われる作品、背景が真っ白なのに気にされない作品、最近では写真のデジタル取り込みや漫画制作ツールの有料コンテンツで用意されているもので済ます作品も珍しくないです。

「ハクメイとミコチ」9巻より(樫木祐人/ KADOKAWA)
作家・作品によって見せたい勘どころは違うので、良し悪しではなく作品の世界観やカラーに合っているかどうかだと思います。
逆にアニメ映画のジブリ作品や新海誠作品のように、背景描写が作品の世界観やカラーを規定してしまう作品もありますね。背景美術だけで金がとれるレベルというか、他の作品と同じぐらいの値段でイインデスカというか。

「ハクメイとミコチ」9巻より(樫木祐人/ KADOKAWA)
この見開きの光と影の表現すごいね。ページの継ぎ目がまったく見えない電書化の仕事も相変わらず見事。
ということで漫画でそれに相応するレベルまで人手で描き込んで世界観を構築する漫画。読み飛ばすのがもったいなくて隅々まで眺めて時間が潰れてしまう。
異種の動物たちが社会を形成する世界観としては、昔あった「メイプルタウン物語」とか「シルバニア・ファミリー」とかも思い出しますけど、この箱庭感、作り込んだ背景が世界観を規定してすごくワクワクさせてくれる感覚は、ジオラマやMMOの世界観なんかも思い出します。秘密基地の設計図を描いた昔のように、イマジネーションが豊かだった童心に返してくれる世界。
MMOでレベル上げも資金稼ぎもさておいて街歩きとおしゃべりでまったり過ごすプレイヤーも少なくなかったように、旅人の街マキナタで休日を過ごせたらどんなにいいか。

「ハクメイとミコチ」9巻より(樫木祐人/ KADOKAWA)
それこそ「シルバニア・ファミリー」みたいにフィギュア?ガレキ?ジオラマ?的なやつ、どっか出してくんねえかなコレ。せめて自宅の一角にNゲージみたいにハクミコ・ワールドを築いて、ちょっとずつ買い足して拡張していって、それを眺めながら過ごせたら楽しそう。

「ハクメイとミコチ」9巻より(樫木祐人/ KADOKAWA)
ここだけ見るとまるで最終回のようだな。
今巻ではハクメイとミコチの出会いのエピソードが語られました。
作者も作品もどこにも全然そんなこと語っていないんですけど、なんかこう、「エピソードゼロを語った作品は完結が近い」みたいなジンクスのような予感が勝手に働いてしまって、勝手に少し寂しくも感じます。
俺が死ぬまで続いてほしいんですけど!
aqm.hatenablog.jp