一見、コンビニのオーナー店長然とした初老のバイト店員・島さん。
特別有能なわけではないが温和で誠実で、頼まれごとを断れず複数のコンビニを又に掛けて働くお人好しの性格、不良や強盗にも臆さず接する度胸。
のコンビニバイト日常もの。基本、しみじみした人情話の1話完結のエピソードを連続するスタイル。今のところ。
平たく言うと島さんは背中に龍の刺青が入った、おそらく引退し更生した元ヤクザです。
漫画においては元・現役を問わずヤクザというのは、ガチンコのヤクザもの以外はコメディのモチーフにされることが多いです。元ヤクザの漫画だと最近だと「極主夫道」とか。コワモテやヤクザ時代に染み付いた言動と、平和な日常のギャップ、みたいな。
あとは「いざとなったら怖くて強い」みたいな、なろう小説的というか、ハードボイルド的な扱われ方も多いですね。
島さんの人格の形成に「元ヤクザ」が深く関わっているであろうことは確かなんですけど、この漫画では元ヤクザの設定こそあるものの、話の展開にあんまり活用せずに、あくまで「温和で誠実な初老のコンビニ店員」としか動かしません。
偽悪的な言い方をすれば「元ヤクザの経歴をおもちゃにする」ことなく、更生したであろう彼の日常のちょっといい話を拾っています。
誤解されそうなので補足しておくと、「元ヤクザの経歴をおもちゃにする」のが悪いことだと言ってるわけではないですよ。いろんなことをおもちゃにして笑い飛ばせることは漫画の美点だと自分は思ってます。
ただこの、元ヤクザの設定がなくても余裕で成り立ちそうなエピソード群を見ていると、元ヤクザがDQNを睨みつけて震え上がらせてスカッとする漫画とはまた違う、作者は別の何かを表現したいのだろうなと思います。
編集者が書いたであろう各電子書籍の作品概要紹介文には、
道を踏み外して転んでも、何度だって立ち上がれる――そういう世界でありますように。
とあります。いい言葉だ。
苦労人の作者の漫画家歴20年近くでの初めての単行本とのことです。
おめでとうございます。面白かったです。高倉健が生きてたら主演で実写映画化してほしいくらい。
2巻以降も、かつて道を踏み外したであろう島さんの、龍が彫られた背中が何を語るのか、とても楽しみです。
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(選書参考)
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