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#ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 11巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

徴兵・動員されたと思しき若者・田丸は昭和19年夏、南太平洋パラオ諸島のサンゴ礁に囲まれたわずか13平方kmの小さな島・ペリリュー島で一等兵として軍役についていた。

飛行場を備えたこの小さな島は戦略的要衝として、日本軍守備隊1万と米軍上陸隊4万が相争う地獄と化していく。

漫画を描くことが趣味な田丸は小隊長から「功績係」として、戦死した戦友たちの記録と、遺族への手紙のゴーストライターを任される。

圧倒的なアメリカ軍の物量。島をすっ飛ばしてフィリピンが攻略されたことにより、もはやなんの戦略的価値もなくなったペリリュー島。

海上封鎖され補給すら絶たれた彼らが正規の指揮系統を通じて受領したのは、11回の御嘉賞と「持久に徹せよ」を最期に途絶した作戦指示だった。

司令部も既に壊滅したわずかな生き残りの日本軍は兵士たちは、反攻に転じた皇軍の艦隊と敵を挟撃する日を信じて決死の抵抗を続ける。

そうする間にも沖縄戦、本土空襲、広島と長崎への原爆投下を経て、昭和20年8月15日、戦争が終わったことすら知らず…

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「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─」11巻より(武田一義/平塚柾緒/白泉社)

今巻で完結。

前巻で戦時のペリリュー島でのエピソードが終わり、今巻はエピローグ的に、狂言回しの田丸が過ごした「戦後」が、その語りを聞き、取材を進める孫の視点で語られます。

描くにあたって生なかな覚悟で描き始めたわけではないことが見て取れ、また娯楽である漫画誌にこの辛気臭い漫画を完結まで載せ続けたヤングアニマルも相当な覚悟が必要だっただろうなと思います。

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「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─」11巻より(武田一義/平塚柾緒/白泉社)

「火垂るの墓」を少年ジャンプに乗せ続けるようなもので、この最終巻のAmazonのレビューにも「暗い漫画で、早く終わって欲しかった」的なレビューも一部見られます。

10巻にわたる「ペリリュー島」編では、戦時下の政府、司令部などの「戦争をさせた側」に対する批判も、アメリカに対する批判も、それに類するメッセージも描かれず、主人公たちが置かれた状況と必死に生き延びようとする姿が描かれたのみでした。

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「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─」11巻より(武田一義/平塚柾緒/白泉社)

総括にあたるこのエピローグで、主人公たちがいかにあの戦争を総括するのか。

それまでの10冊と同じく、決して教条的で押し付けがましいメッセージではなく、また戦争を避けるための示唆に満ちたものでもありませんでしたが、戦争を経験したあくまで一個人のストレートな体感とその後の心のあり様を、作者自らのメッセージで歪めて伝えてしまわぬよう細心の注意を払って最後までカメラとマイクに徹して描写した、その取材の労力と取材相手に対する敬意や真摯さには頭が下がります。

この作品には、戦争ドキュメンタリーにありがちな、インタビュー相手である戦争体験者の証言をダシにして作者自身のメッセージや話題性を補強しようとする、ある種の「欲」のあの匂いが、自分には感じられません。

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「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─」11巻より(武田一義/平塚柾緒/白泉社)

決して気楽には読めないこのテーマでありながら、しかし「続きが気になる」という漫画らしい興味の引き方で娯楽作品として両立させ、直接的なメッセージはほとんど何も語らないにも関わらず読者にいろんなことを雄弁に感じさせ、そして語弊を恐れずに言えばとても面白い漫画でした。

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「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─」11巻より(武田一義/平塚柾緒/白泉社)

よく描こうと思ったし、よく描かせたし、よく話してくれたし、よく描き上げたもんだわ。

 

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