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#逃げ上手の若君 2巻 評論(ネタバレ注意)

「ヒカルの碁」みてーな表紙だな。

「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」の松井優征の新作は、鎌倉時代末期〜南北朝時代〜室町時代初期を舞台にした歴史物。設定・登場人物は史実ベース。

鎌倉幕府のトップ・執権として世襲で地位を継いできた北条氏の嫡子の少年・北条時行。しかし、幕府と敵対する後醍醐天皇の起こした乱の鎮圧に出兵した足利高氏(尊氏)の寝返りにより、鎌倉幕府は滅ぼされてしまう。

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「逃げ上手の若君」2巻より(松井優征/集英社)

北条氏の滅亡により大切なものを全て奪われた時行は、信濃国の国守にして神官の諏訪家を頼りに落ち延び、足利への復讐を誓う。

という伝記もの。

主人公の持ち味は強い生存本能に基づく逃げの天才。

1巻(というか連載開始)は読者の驚きをもって迎えられましたが、まあご祝儀人気というか、どんな漫画でも1巻は新設定・新キャラ祭りなのでそれを見てるだけで楽しい、みたいなとこがあって、長期連載作品として真価と問われるのは通常モードのクルージングに入る2巻だったりします。2〜3巻で打ち切られる漫画はとても多いです。

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「逃げ上手の若君」2巻より(松井優征/集英社)

歴史クラスタからも「そこ行くのか!」と評価は高かったものの、デカい声で驚かれるのは最初だけでセールスに必ずしも直結しないため、漫画として面白くなかったら普通に読まれなくなります。

再確認すると一般論として歴史もの、特に人物に脚光を当てた伝記ものというのは往々にして、特に少年漫画として面白く描く、面白くなるまで描くのがとても難しいジャンルです。

どんなに歴史上有名な人物であっても、幼少期からの下積みといっていい時期を描くことは避けられず、人生のハイライト、例えば合戦で華々しく活躍する姿に辿りつく前に、多くの作品が地味な展開からくる不人気による打ち切りを迎えます。

説明しなきゃいけないこと(厳密には作者が「説明しなきゃいけない」と思ってしまうこと」)が多く、必然モノローグや説明ゼリフの文字数は多くなり、娯楽なんだか学習漫画なんだかよくわからないことになるのも珍しくありません。

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「逃げ上手の若君」2巻より(松井優征/集英社)

あとまだいろいろあるんです。主人公が本当に活躍する頃には少年じゃなく壮年(要するにおっさん)になってしまうとか、史実に嘘を混ぜるバランスとか、最新の学説に対する配慮とか、天皇を悪役として描きにくいとか、女性キャラ少ないとか。

諸々、漫画、特に少年漫画で伝記は難しい。

この作者もゆうきまさみもその辺はわかっていながら、あえてそこに手を突っ込んでいく「今の自分なら描ける」という自信を感じさせます。

これ本当に面白くなるのは10巻とか20巻とかぐらいなんじゃねえのかな、と思いつつ、主人公の幼年期は少年漫画らしさに振った感じで行くようです。

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「逃げ上手の若君」2巻より(松井優征/集英社)

イベントマップみたいのも用意されていて、ここで誰と闘い、誰が仲間になる、的なのも計画的に配置されている匂いがします。

アクションとコメディで少年漫画らしく引っ張って☆4ぐらいで楽しく読めるクオリティですが、次かその次ぐらいには「南北朝を描いてエラい!」以外のツカミというか、最初の見せ場が欲しいところ。

今のところ「これが描きたくてこの作品を描き始めたのか!」というページやコマに、まだ出会えた感触はありません。

なんだかとても上から目線の偉そうな文章になってしまいましたが、それだけ期待が大きく、既にハードルが上がってしまった作品。

10年20年かけて読む覚悟はできていますから、じっくり読んでいきましょう。作品の入れ替わりが激しいやら激しくないやらよくわからない少年ジャンプなのが気がかりですけど。

 

余談ですけど、ゆうきまさみの「新九郎、奔る!」とは、

・比較的手垢のついていない時代・人物の伝記

という以外にも

・話し言葉や演出に現代語や横文字言葉を入れてわかりやすく

・現作〜過去作を通じてしばしば可愛らしい男の子(稚児匂わせ)を描く癖がある

なども共通していて、日常パートが地味になりがちな歴史物を漫画読者に飽きさせないように描く上で割りと合理的で、歴史物の描き方として流行っていきそうな兆しも見えますね、と思ったり。

 

 

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