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#NEW GAME! 13巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

失礼ながら「まんがタイムきらら」系の量産型美少女萌え4コマのルックスを持ちつつも、「登場人物が成長していくお仕事漫画」の背骨を頑なに守り続ける漫画。

多摩美に不合格、専門学校を経てゲーム会社に就職するも2年で退職した作者の経歴や情念をいろんなキャラに色濃く反映、「業界もの」としてはだいぶ情報を薄めて、仕事の失敗や人間関係の葛藤を通じた登場人物の成長を焦点に。

今巻で完結。

 

最後に訪れたピンチは、社運を賭けた新作ゲームの、資金難による開発中止の危機。

手を差し伸べてきた提携企業が提示した条件は、新作のメインビジュアル製作を務めるヒロイン・青葉の降板と、その後任に親友・ほたるを据えるという残酷な仕打ちだった…

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「NEW GAME!」13巻より(得能正太郎/芳文社)

青葉は、本人も気づいていなかった弱点と能力の欠如を会議の場で真正面から指摘され、大切な役割を親友に奪われ、なけなしのプライドを粉々に打ち砕かれます。

お仕事漫画としての「苦境」「挫折」の描写が、読んでいて割りとしんどい、甘い見た目の割りにビターな描写が多い漫画だなと思います。

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「NEW GAME!」13巻より(得能正太郎/芳文社)

その割りに毎回、大団円でスルッと解決してしまうところがあって、ややもすればご都合主義的と言うか、「実際はそんなに上手くいかねえよ」と思われがちな漫画であるようにも思います。

「解決編」のロジックや因果関係は割りとあっさり描かれることが多く、「竜頭蛇尾ではないか」と思う向きもあるかなと思います。

 

思うに、このお仕事漫画のこの作者は、ビジネス・ケーススタディのように(あるいはラーメンハゲのように)「問題を知恵と工夫と経験でいかに鮮やかに解決したか」を描写することにあまり興味がなく、可愛らしい絵柄に反して主人公たちが陥る苦境や挫折と「そこからいかに立ち上がり這い上がるか」の、「根性」とか「ガッツ」とか、泥臭い不屈の精神性にこそスポットを当てたいのだろうと、自分は思います。

精神論的・根性論的と言ってもいいですが、なにかこう、挫折から立ち上がる瞬間こそが人間の最も美しい瞬間であると信じていて、そこに向かって作劇のリソースを積み上げて「俺はここが描きたいんだー!!」ってカタルシスを集中しているというか。

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「NEW GAME!」13巻より(得能正太郎/芳文社)

最近は「ウマ娘」でも様々なシナリオで繰り返し語られるテーマでもありますね。お、走っとる。

 

有名なあのコマのあのセリフが期せずして象徴してしまったように、この「NEW GAME! 」が提示してきたテーマそのものは平凡で特段珍しいものではありませんでしたが、その経緯の描写が生み出すディティールは可愛らしい絵や4コマ漫画というのん気な形式に反して、なにか実在の背中で語られているように自分にとって生々しく迫ってくるものがありました。

深夜に会社のデスクで独りぼっちで泣きながら食欲もないのに明日の体力のために噛んで飲み込んだコンビニ弁当の匂い、無様だった自分を顧みて何がいけなかったか何が足りなかったか頭の中で繰り返し再確認するときの鼻の奥のツンとした痛み、すり減ってバラバラにぶっ壊れたプライドを拾い集めてハリボテのように繋ぎ合わせる時のギシギシした音が聞こえてくるような。

 

良い表紙です。

陳腐でありふれて具体性に欠けて時に人をイラだたせることすらある、それなのに妙に普遍的でいつまでたってもどうにも替えの効かない、あの言葉が聞こえてくるような。

 

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「NEW GAME!」13巻より(得能正太郎/芳文社)

娯楽作品から受け取るメッセージは人それぞれに様々、あるいはメッセージを受け取らない・メッセージを探さないことも大切な選択肢だと思いますが、

楽しいことばかりの仕事じゃないけど、とりあえず俺は、明日も一日がんばるわ。がんばるぞい。

9年間、お疲れ様でした。

 

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