
大戦を止め災厄を退けた7人の大魔術師のうちの1人が「過ちを繰り返さぬよう」と大陸の中心に図書館を建立した、中世ファンタジー世界。

「図書館の大魔術師」6巻より(泉光/講談社)
それから100年近くの後。村の貧民窟で暮らし、エルフのような容貌で「耳長」と蔑まれ、本が大好きなのに村の図書館の利用も禁じられた幼い少年・シオ。ある日、本の都アフツァックの中央図書館の知識エリート・司書(カフナ)たちがある目的を持って村を訪れ、少年に出会う。ボーイ・ミーツ・ディスティニー、まるで1本の映画のような1巻から始まった超正統派・超本格派ファンタジー。書物を守るために魔法と技術を駆使して戦う司書たち。

「図書館の大魔術師」6巻より(泉光/講談社)
それから7年、6歳だったシオも13歳になり、司書になる試験を受けるために本の都アフツァックへ。
1巻のプロローグ、2〜3巻の司書試験編が終わって、新章突入、3巻からシームレスに司書見習い編。
本格的な見習い研修期間が始まり、バトルアクションはいったん鳴りを潜めますが、現実の差別や因習をモチーフに、フィクション世界で展開する濃密で重厚な情報量。
大作RPGの分厚い設定資料集を渡されたような気持ち。
でも重くなりすぎず、長い説明ゼリフがクドく感じないのは、ドキュメンタリーでなくエンタメを目指す漫画作品であると作者が1巻で既に示した信頼故か。
たぶん無意味に「置いてある」設定は一つもなくて、すべて物語の必然性と結びついてるんだろうなー、という信頼。
いやー、おんもしろいねこの漫画!
唯一の不満は刊行ペース、というより、読んでるこっちが早く続きを読みたくて仕方がない、という感じ。
今巻は、前巻・後の大魔術師候補のテイ初登場の後始末、メディナ・ハハルクについて、シオにまつわる陰謀とセドナの暗躍(未満)、35歳の司書見習い生・ソフィさんについて。
悩める迷える見習い生たちを導く存在として、初老の女性司書・イシュトア先生の存在感が強いですが、今巻はもう自己啓発系のビジネス書が出せるんじゃないかってぐらいイシュトア先生語録が豊作な巻。
人を教え導く人物たるもの、かく在りたいものですね。

「図書館の大魔術師」6巻より(泉光/講談社)
自らを高貴で尊い血と規定する宗教観の一族に生まれ、「歩く差別主義」みたいになっちゃってるメディナ・ハルルク。
常に他者への「怒り」でドライブしているキャラでしたけど、今巻その怒りの矛先が自身に向かいます。
戦争の災禍から立ち上がりつつある世界を舞台に「知識と経験の蓄積が生む知恵が、いつか争いを無くせるはずだ」という理想が隠れたテーマになっている作品で、現実世界で起こる戦争・紛争のショックに直撃されやすいテーマです。

「図書館の大魔術師」6巻より(泉光/講談社)
多くの争いは怒りが原因で起こりますが、知識と経験がその怒りを分解し、相手への理解と知恵によっていつか相互理解と共存ができるはずだ、という、現実世界2022年時点では人類がまだ到達・解決できていない、薫殿の言う甘っちょろい戯言レベルの、綺麗事のおとぎ話。
もしかしたら永遠に綺麗事のおとぎ話なのかもしれませんが、でもこの作品においては無力感よりも、一足早く小さな一歩で先に進むことが選ばれました。
正直、「メディナは無理だろ」と思って(内心で見捨てて)いたんですが、こんなに早く、メディナで泣かされるとはね。
ジャンプ系のキャリアを1回踏んでる作家で、1巻から『ONE PEACE』に対する強いリスペクトを感じる作品でしたが、このシーン、

「図書館の大魔術師」6巻より(泉光/講談社)
ハイタッチ→我に返る→揉みくちゃ
の流れ、偶然の一致かも知れませんが『スラムダンク』のラストのオマージュというかサンプリングというか、読んで育った作品に対する作者のリスペクトを感じます。
なんと言うか作者の「いつかあんなシーン自分も描いてみたかった」って憧憬が伝わるような。
ソフィさんも、よつばのとーちゃんというか、『河合荘』シロさんというかw
aqm.hatenablog.jp