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#ブルーピリオド 1〜5筆(1〜2巻) 評論(ネタバレ注意)

サッカーでよく「相手をリスペクトしすぎる」という言い回しを聞きます。

強いチームや強い選手と対戦するにあたって、まあ「萎縮し必要以上に警戒しすぎて落とし穴にハマる」的な意味で使われます。

『ブルーピリオド』を未読だった自分は、2022年度中にこの作品を読むことを一つの目標にしていました(年の目標が漫画を読むことってなんなんだ)が、いざ読むにあたってこの作品のあまりの評判に、自分は読む前から既に「リスペクトしすぎ」ているように思います。

『ブルーピリオド』1巻より(山口つばさ/講談社)

そのうち記事にできればと思いますが、いちいち名前を挙げることも憚られるというかキリがないくらい、「石を投げれば美大出身に当たる」と言っていいぐらい、漫画家には美大出身者が多いです。

美大の漫研なんてプロの卵の宝庫で、大手出版社の漫画編集が「美大漫研スカウト行脚」をしているような話も聞きます。

美大を経た漫画家にとって受験も含めた「美大もの」というのは、ある意味「取材不要」の「私小説」のようなもので、自分の青春時代をモチーフにキャリアの中の一本が成立してしまう、切り札のようなものに見えます。

作者の思い入れの深さゆえなのか、名作になるか、自分のためだけに描いた独りよがりな迷作に陥るか、両極端なジャンル。

『ブルーピリオド』1巻より(山口つばさ/講談社)

そういうわけで、「美大もの」というのは漫画の中の一大ジャンルで、自分も好きな作品がたくさんあります。

その「美大もの」漫画の中で、現役作品でありながら、まるで「オールタイムベスト」の座を争う「行ける伝説」のような作品として扱われている本作は、リオネル・メッシのように対面する前からリスペクトしないわけにはいかない感じ。

諸事情あって、既刊13巻を一冊ずつ読んで感想を記事にする余裕がないため、ある程度の区切りごとに記事にしたいなと思って、Wikipediaを薄目でカンニングしたところ、

2022年12月28日時点のWikipedia「ブルーピリオド」の項

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%94%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%89 より

とのことなので、「高2編」「高3編」「藝大1年生編」「藝大2年生編」単位で読んで記事にしようと思います。

もうすでにちょっとネタバレ踏んでもうてるやん。藝大受かってるやん。

というわけで。

『ブルーピリオド』1巻より(山口つばさ/講談社)

男子高校生・矢口八虎は、バレないように仲間と夜遊びをし酒を飲み煙草を吸う不良だったが、人生に対するリアリストで将来のために勉学を欠かさず学業成績優秀、学校のありとあらゆるカースト層の生徒と馴染める人たらしの、万能人間だった。

が、情熱を注ぐ先を見つけられず、どこか借り物の人生のような空虚さを感じていた。

美術の時間、美術室にタバコの箱を落としたことに気づいた八虎は、回収に向かった美術室で描きかけの一枚の油絵に出会う。

『ブルーピリオド』1巻より(山口つばさ/講談社)

この出会いが、冷めていた八虎の人生に火を灯すのだった…

という、高2の途中で絵画への情熱に目覚めて藝大を目指す少年のお話。

とりあえず八虎が美術部に入部して高2を終えるところまで。

バトルもアクションもラブ要素も動物もグルメも、およそ売れ線とされる要素はほとんど見られず、まあ言ったら絵描いてるだけの漫画ですが、噂に違わぬ面白さ。

作中で「絵は文字じゃない言語」と度々語られる割りに、セリフやモノローグの言葉の使い方が秀逸で、静かな芝居ながら八虎の情熱の迸り、情感の機微がよく伝わってきます。

『ブルーピリオド』2巻より(山口つばさ/講談社)

『ヒカルの碁』方式で、いわゆる「作中作」を描かずに周囲のリアクションでキャラの力量を示す「クリエーターもの」漫画も少なくないんですが、本作は美大生?の手を借りてその作品を「作中作」として掲載している他、まるで読者に油絵を描かせようとしているかのように絵画のメソッドを具体的にわかりやすく解説しつつ、八虎の成長を描きます。

絵画版の『スラムダンク』やねw 不良仲間が少し寂しげながら少し遠巻きに主人公の背中を押す様子もよく似ています。

また可愛い女の子や女装男子?も登場しますが、今のところは色恋要素に重点を置く気のない、恋愛面ではストイックな展開。

『ブルーピリオド』2巻より(山口つばさ/講談社)

恋愛がらみで主人公の天才が覚醒する「美大もの」が多いんですけど、情熱が支える「努力の量」が主人公の武器のようです。

「ボーイ・ミーツ・ガール」ではなく「ボーイ・ミーツ・ディステニー」、「女に承認されたい」を動機としない男主人公ってのは、ちょっと最近ぽい感じしますね。そうでもないのかな。

動機づけが置かれた状況による誘導ではなく、一目惚れのように出会いと己のパッションに直感的に突き動かされる主人公像というのも、美大出の作家らしい気もします。が、ただの後付けの偏見のような気もします。

1巻が5年前か。

もっと早く読んでおけばよかった、と思う反面、まあ、読みたい時が読み頃よね。

というわけで、続きを読んできまーす。「25筆」って何巻までだ?