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#楊家将奇譚 2巻 評論(ネタバレ注意)

中国で「三国志演義」「水滸伝」と並んで伝統的に人気の歴史伝奇「楊家将演義」を題材にした、タイムスリップもの。

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現代日本の女子高生・鈴は幼い頃に両親を亡くし、北海道で牧場を営む祖父に引き取られたもののその祖父も亡くし、天涯孤独の身だった。

東京の、嗜んでいる弓道の強豪校に入学したものの、学校にも馴染めずにいたある日の帰り道、落雷によって過去にタイムスリップしてしまう。

中国、10世紀、宋の時代、戦場。

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

鈴を炎の中から助けてくれた武人たちが、戦場の混乱の最中に敵に射られかけるところ、自ら敵に矢を射て恩人を助け返した鈴は、身元改めも兼ねて彼らの砦に招かれる。

彼女を助け、また彼女が助けた武人たちは、"楊家将"。北宋最強の武人・楊業が率いるその息子たちだった。

見慣れない衣装(セーラー服)に身を包み、謎の板(スマホ)で未知の技術(カメラ)を示し、未来の日本から来たと明け透けに語る彼女を、

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

楊家の息子たちは「武門に栄光をもたらす仙女である」と考え、首都・東京開封府の楊家の本拠で待つ、彼らの父で名門・楊家の当主である楊業の元に鈴を連れていくのだった…

という、平凡な女子高生がタイムスリップ先でいきなり歴史上の偉人に保護され、未来の知識などで活躍していきそうな、タイムスリップの定番展開。

いかにも最近のラノベや「なろう」でありそうな話ですが、どちらかというと古典的なタイムスリップものに近く、いわゆる「戦国タイムスリップもの」、

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漫画であれば「王家の紋章」のなどの、ジュブナイルものの伝統の系譜に近いように感じます。

題材は古代中国の武将ものでいかにも男の子向けっぽいですが、主人公に「面白れー女」特異点ヒロインを置き、「楊業の8人の息子たち」がいずれも強くイケメン揃いの「イケメンパラダイス」で、美麗な絵も相まって雰囲気的には乙女ゲーに近く、むしろ女性にオススメな感じ。

ヒロイン・鈴の面白いところは、未来から来た知識だけが売りの「守られ無力ヒロイン」ではなく、幼少期から祖父の牧場で乗馬に親しみ、また強豪校の弓道部員という経歴から、

『楊家将奇譚』2巻より(有谷実/KADOKAWA)

騎馬と弓術に優れる「即戦力ヒロイン」な点。

原典の楊家将演義では、北宋最強の武門・楊家にこの後の歴史で破滅的な悲劇が訪れることが知られており、凡百のチート無双ファンタジーとは一線を画す大河的な展開が予想され、非常に楽しみな作品。

作品のブート段階でいろいろあった(あるに決まっとる)1巻を継いで2巻。

いまんとこ、ヒロインの鈴が敵方に拉致されたり救出したりと、

『楊家将奇譚』2巻より(有谷実/KADOKAWA)

鈴を中心にしたいわゆる「オリジナル・エピソード」。

よく考えたら1巻も、鈴が北宋の時代にタイムスリップする話で、いまんとこオリジナル・エピソードしかやっておらず、『楊家将演義』の原典エピソードの消化はなく、舞台として設定を借りてるだけの状態。

自分がこの作品に期待しているのは、

①原典『楊家将演義』のエピソード消化、大河進行

②鈴がタイムスリップした原因や意味、鈴の存在が『楊家将演義』に与える影響と帰結

なんですが、①がいまんとこ背景設定以外は原典エピソードがほとんど描かれていないため、②についても消化不良で、『楊家将演義』要素が「イケメンパラダイス」の舞台装置にしかなってないのが、不安といえば不安ではあります。

『楊家将奇譚』2巻より(有谷実/KADOKAWA)

まだたった2巻ですし、作品としてはキャラの掴みと鈴との関係構築の初期段階なので、数十巻・十年単位の時間をかけるつもりの大作であればこのペースで問題ないですが、このまま「『楊家将』である必要ない「なろう」的イケメンパラダイスなオリジナル展開」がずっと続くと少しイヤだなあ、とはちょっと思います。

『三国志』で喩えると「『桃園の誓い』もまだ発生せず面白れー女ヒロインとイケメン劉備がオリジナルエピソードでトゥンクしてる初期状態」で、「長坂とか赤壁とかの有名エピソードまで保つのかコレ?」とちょっと心配、という感じ。

とはいえ、漫画としては楊業といえども「まだ脇役」の、作品の土台作りの段階なのも確かなので、難しいですね。

『楊家将奇譚』2巻より(有谷実/KADOKAWA)

いや、設定だけ借りた「面白れー女と楊家将イケメンパラダイス」だとしても、それはそれでアリなのかもしれんな…

いずれにせよ、描く側だけでなく読む側も「じっくり」いきましょう。

 

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