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#負けヒロインが多すぎる!@comic 1巻 評論(ネタバレ注意)

この作品のサンデー系の恋愛ものの大先輩にして全人類の恋愛のバイブルである『神聖モテモテ王国』によると、

『神聖モテモテ王国』1巻より(ながいけん/小学館)

とのことです。

 

昔は恋愛・ラブコメ作品では、主に尺を稼ぐ(サイドストーリーを増やす)ことを目的に三角関係〜ハーレム状態にすることが定番でしたが、読者の漫画を読む際のストレス耐性の低下に合わせるために「不快な展開を避けた」結果、三角関係の描写は減り、またハーレム作品でも荒れることを嫌って決着を避ける(ことによって別の荒れ方をする)作品も増えました。

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この辺は漫画に限らずドラマや映画でもそうなんですけど、主人公やヒロインの気持ちが複数の異性の間で揺れる「両天秤(消極的な二股)」思考が、彼らの好感度を下げるのも事実で、なかなか扱いが難しい。

という事情もあってラブコメ・恋愛ものの「負けヒロイン」は、「決着をつけない」「そもそもライバル候補を出さない(三角関係にしない)」「ライバルに育てない」などのやり方で、存在自体が全体的に減ってきてる傾向にあるように思います。

ただそれによって捨てているものもあって、「恋愛で敗れる者の美しさ」みたいなものも見る機会も減りました。女子キャラに限った話じゃなく、例えばあれだけライバルとしてウザかった『めぞん一刻』の三鷹さんの切なく美しい失恋模様とかね。

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要するに自分は「負けヒロイン」が持つ切なさが好きなんですわ?

主人公たちの恋愛に直接絡まなかった(ライバルにならなかった)ものの、『かぐや様』のマキちゃんはちょっとした発明で、

『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』10巻より(赤坂アカ/集英社)

作者からコメディモチーフとして失恋属性を度々イジられた不憫なキャラでしたが、この子が恋と友情の間で揺れたり逃避したり虚勢を張ったり傷ついたりそれを吐露したり立ちあがろうともがいたり、と人が失恋した時の心の動きを体現していて、とにかく可愛いくて本音や開き直りが面白いんですよね。

ということで、この『負けヒロインが多すぎる!@comic』は

『神聖モテモテ王国』1巻より(ながいけん/小学館)

「マキちゃんみたいなキャラをいっぱい出したら面白いし可愛いんじゃね?」みたいなコンセプトの、タイトルの通りフラレナオン祭りみたいな俺得なラブコメです。

 

ラブコメに一家言持つ自称「違いのわかる男」(意味わからん)の男子高校生・温水和彦は、

『負けヒロインが多すぎる!@comic』1巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

知り合いを避けて隣町のスタバでラブコメラノベを読んでいたが、隣の席でクラスメイトの男女が「ラブコメ漫画の最終回の1話前の主人公とサブヒロイン」みたいな会話をしている場面に遭遇してしまう。

『ハイスコアガール』10巻より(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

これじゃなかった。

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『ハイスコアガール』の小春の最後のシーンのパクリみたいな会話で片想い相手の背中を押してやる「負けヒロイン」杏奈。

『負けヒロインが多すぎる!@comic』1巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

そんな失恋シーンを和彦に目撃されてしまったことに気づいた杏奈は激しく動揺し、持ち合わせがないのにスタバでやけ食いして和彦に借金した上に、和彦相手に延々と失恋の愚痴を繰り広げるのだった…

という、失恋シーン目撃から始まるボーイ・ミーツ・ガール。

『負けヒロインが多すぎる!@comic』1巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

借金返済の代わりに杏奈が日々の弁当を用意することになり、毎日昼飯を食いながら杏奈の愚痴を聞かされる他、杏奈以外にも続々と「負けヒロイン」が和彦の周囲に現れ吸い寄せられるように和彦に絡んでくる…という、複数ヒロインの若干ハーレム風味。

全員フラレナオン。

『負けヒロインが多すぎる!@comic』1巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

『かぐや様』のマキちゃんをプロトタイプにしたヒロイン造型ですが、元が良いからというのか、ハッピーエンドに至った「勝ちヒロイン」よりも後悔・プライド・祝福・コンプレックス・開き直りと心情の機微が複雑で、かつ予定調和のための「優等生ヒロイン」的な取り繕いが少ないせいか、素直に泣いて怒って笑ってと情緒が活き活きとしていて魅力的です。

『負けヒロインが多すぎる!@comic』1巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

コンセプトは大変好み、ヒロインも活き活きしていて魅力的、と俺得なスタートですけど、あまり見たことのないコンセプトのラブコメだけに、どう回していくのか、どう転がっていくのか、1巻じゃちょっとまだよくわかんねえところはあります。

「他の男に片想いしている」からこそ魅力的なヒロインが、例えば本作主人公の和彦に気持ちが移ったら、その魅力は持続するもんなのかしらん。

『負けヒロインが多すぎる!@comic』1巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

ちょっと新基軸のジャンルのラブコメとしてその行く末を気にしつつも、マキちゃんにしろ杏奈にしろ「フラれてるから面白い」というある意味「不幸」がアイデンティティのキャラの「幸せになること」に対する宿命的な二律背反って、描く方も読む方も「不幸」「不憫」を娯楽として創作して消費する、業が深い話だなあ、と。

 

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