
長年連れ添った津軽弁の農家の老夫婦・正蔵とイネは、ある夜目覚めると二人とも青年期のイケメンと美女の姿に、特に理由もなく若返っていた。
若返った二人に孫娘ははしゃいで甘え、息子の嫁はときめき、息子は動揺し、老人会はざわついたが、
60年近く連れ添った二人はそこまで動じることもなく、しかし少しずつ若返った身体でのかつての日常を取り戻していく。

『じいさんばあさん若返る』6巻より(新挑限/KADOKAWA)
という不条理ファンタジーな日常コメディ。
出オチの一発ネタの割りに日常ネタで楽しく続いて6巻。
日常コメディながら、「寿命」「余命」を感じさせる不穏さも孕んでいて、「老いとは何か」「人生とは何か」などちょっと興味深いテーマ性を持った漫画になってます。

『じいさんばあさん若返る』6巻より(新挑限/KADOKAWA)
今巻も軽めの日常コメディ進行ながら、他の若返った老夫婦の登場、そして「夢の中の神様」によるイネに対する余命宣告など、シリアスになり得る要素も。
作品のカラーを変えかねない、哲学とドラマの可能性を孕んだ事件で、若返った老夫婦の互いへの労りが込められたエピソードではあるんですけど、なんかこう、本来そこでもっと生まれたはずの葛藤や苦悩がご都合主義で軽く簡単に塗りつぶされていく印象もあります。かといってコメディでもないという。
シリアスにしては軽くご都合主義すぎ、ギャグコメディにしては重すぎる、というか。
バズり優先のTwitter漫画特有の背骨の薄さの悲しさで、両極の狭間で行き当たりばったりでブレてるだけのようにも見えます。

『じいさんばあさん若返る』6巻より(新挑限/KADOKAWA)
「もう1組の若返り夫婦」の登場が、数話のネタを保たせる以上の意味があるようにも、今のところは見えません。
なんですけど、この作者は一見中途半端なこの狭い狭間で描きたいこと、描きたいシーンがあるんじゃないか、となんか期待もしてしまいます。
ギャグコメに振り切ってる作品であれば、この辺は踏み倒すのが当たり前なんでこんなこと思わないですけど、この作品は必ずしもそうではないですよね。

『じいさんばあさん若返る』6巻より(新挑限/KADOKAWA)
あとがきによると佳境が近いそうです。
作者は創造主として漫画の都合で彼らを「若返らせ」、今回更に「寿命を操った」んですけど、興味深い良いテーマだけに、そのことに「漫画の都合で徒に彼らの人生を弄んだ」以上の意味、「若返って寿命まで揃えた老夫婦」にしか見えない景色、この作品がただバズるためだけではない

『じいさんばあさん若返る』6巻より(新挑限/KADOKAWA)
「普通に老いてそれぞれの寿命で死んでいく」では描けなかった何かを、見せてくれるといいな、と思います。
aqm.hatenablog.jp