
共感性羞恥でダンスを観ることすら苦手な新入生・小谷 花木(こたに かぼく♂)、通称「カボ」。
長身でバスケ部出身、吃音症(どもり)で言葉での自己表現が苦手。
他人に合わせて生きつつどこか窮屈さを感じている少年が、高校でダンスに夢中な少女とダンス部と出会う、ボーイ・ミーツ・ディスティニーなダンスもの。

『ワンダンス』9巻より(珈琲/講談社)
ジャンルで言うと「ストリートダンス」でいいのかな?
初心者ながらバスケ経験者で運動神経は良好、長身なのでダンスも映えるという素質持ちの主人公が部活のレッスン、コンテスト、ダンスバトルを通じてダンサーとして開花していくオーソドックスな展開。
美少年・美少女がクールに踊りたくる、眼福な作品。

『ワンダンス』9巻より(珈琲/講談社)
高校対抗ダンスバトル編を経て、エリアのB-BOY第一人者・カベとコンビを組んでB-BOYの2on2バトル大会に出場することに。を今巻で決勝まで。
裏番組ではヒロインのワンダがプロダンサーの主宰するショーのレッスンに参加し、ダンサーとしての世界を拡げていた。

『ワンダンス』9巻より(珈琲/講談社)
作品の途中から、ストリートダンスにおいて「音と一体になること」を強く希求している漫画作品。
『スラムダンク』がヒットしていた頃、NBAのマイケル・ジョーダンのセカンド全盛期(2度目のスリーピート)とも時期が重なって、日本のプレイ人口の増加と並行してNBAの視聴者数も増えました。自分もその頃にNBAを観はじめました。NHK-BSで。
なので井上雄彦が『スラムダンク』で描く流川や仙道のスーパープレイに近いプレイを、NBAの映像で実際に見たことがあったので、作者とイメージが共有できていました。

『ワンダンス』9巻より(珈琲/講談社)
「あーこれジョーダンのあのプレイだな」「ロドマンのあの時のリバウンドに似てるな」
という感じで。
自身がバスケブームを作った側面もありますが、『スラムダンク』のヒットは読者の競技に対するより深い理解という意味で、タイミングの僥倖(衛星放送でNBAの試合が毎日放送されていたこと、MJの全盛期とカチあったこと)にも恵まれていたと思います。
似たようなことはJリーグによる国内での隆盛やネット動画の普及も相まってサッカーでも起こり、それをベースに描かれ方も少しずつ変わっていき、プレイの細かいニュアンスを映像的に描くサッカー漫画が増えました。
aqm.hatenablog.jp

『さよなら私のクラマー』14巻より(新川直司/講談社)
自分には、このコマとコマの行間が動く映像として脳内で再生されます。
試合の映像を広くたくさん観てイメージのレベルが上がった漫画家と読者の間で、プレイの映像的なイメージやダイナミズムの感覚を共有した上で描かれ、その行間を脳内で補完されて読まれる漫画。
しかし、先日『BLUE GIANT EXPLORER』の新刊を読んだ時にも思ったんですが、
aqm.hatenablog.jp

『BLUE GIANT EXPLORER』7巻(石塚真一/小学館)
最近の『ワンダンス』に対しても、読者として「自分が作者の表現についていけてない」ことを強く感じます。
スポーツニュースなどでも映像が流れるバスケやサッカーと違って、ジャズのライブやストリートダンスのパフォーマンスの映像を目にする機会が、自分みたいな漫画とスポーツが趣味のおじさんは少ないんですね。

『ワンダンス』9巻より(珈琲/講談社)
イメージで先を行く作者を孤立させてしまっているのではないか、と感じる反面、ジャズやストリートダンスの現場や映像を浴びるように観て育った層の眼には、この漫画はどんな風に映っているんだろうか、もしかして自分には聴こえない音が聴こえているんだろうか、などと考えてしまいます。
一般論として漫画を読むのに特殊な能力は必要なく、誰でも簡単に読めることが漫画の売りなんですが、高次元に漫画を楽しむのには読者の側も経験、もしかしたら才能、要するに「教養」のようなものが必要だったりして、漫画表現の深奥にワクワクする反面、割りとしんどい話だなw などなど、この漫画を読んでいると思います。

『ワンダンス』9巻より(珈琲/講談社)
とりあえずYOUTUBEでストリートダンスの動画をいくつか観てみよう。
そう考えると「漫画を導線に競技に興味を持ちました」という、ごく真っ当で当たり前な話ですし、フィクションをフルに楽しむためには多かれ少なかれ教養が必要なことはそもそも当たり前の話なんですが。
aqm.hatenablog.jp