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あ、今日読んだ漫画

#紛争でしたら八田まで 11巻 評論(ネタバレ注意)

表紙のメガネ美女、「地政学リスクコンサルタント」の八田百合がクライアントの依頼を受けて世界を股にかけて紛争を渡り歩き、地政学の知識と思考と調査能力と護身術で解決していく、美女!メガネ!インテリ!ハードボイルド!ワールドワイド!なかっけーお仕事もの。

ぼっちでメガネで日系で手ぶらのココ・へクマティアル、という感じ。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

下品な方の出羽守っぽいというか、ちょっと「ブラック・ラグーン」みたいな洋画吹き替えワールドな感じ。

差別や不和、対立に満ちた社会の縮図で苦悩する依頼主たちを、「たったひとつの冴えたやり方」で少しだけビターなハッピーエンド、イバラの道ながらも融和と協調と成長に導く、シビアな現実で始まりながらも人間の善性を信じた希望に満ちたあっ軽いラスト。

というスタイルで作劇はほぼ一貫してます。

今巻は、巻の2/3を割いてコロンビア編全6話を完全収録、次いでスイス編の冒頭第一話まで。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

巻末には作者の投稿時代の受賞作なのかな? 前後編の短編『定時退社でライフルシュート』を収録。

未婚の事務バイトの三十路女がエアライフルに出逢うお話。画風こそ初々しいですが、息を止めて時間を止める描写が読んでて気持ちいい良作。ちょっと『タッチ』主題歌を思い出したw

不安定な政情と地理的な要因から、コロンビアが麻薬産出においてビジネス面で「いかに恵まれているか」というか、「そうなってしまう要因」が、右派・左派両方の言い分を含めて語られます。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

アンデス山脈による物理的な分断、それによる政府の統治の及ばなさ、麻薬消費大国アメリカへの地理的な近接が、「麻薬生産しないと生きていけない」「怒りが政府に向かう」環境を作っている、と。

無責任に大局的なことを言えば、政府のガバナンスは通信技術の発達によってより緊密な連携が可能になっていくでしょうし、それでも難しければ強力な権限を持った自治領化してしまう、もっと言えば独立してしまうのはどうか、とかになるんでしょうけど。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

いずれにせよ、誰かが誰かを殺してしまった時点で高確率で「ポイント・オブ・ノー・リターン」になってしまう、という。

「人命が大切」という大原則に目を瞑っても、「正義の天誅」は数十年、下手したら数百年の泥沼化のトリガーを引いてしまって、感情を満足させる以外の効果がなく、賢いやり方ではないんですね…

相変わらず無駄のない、無駄のなさすぎる構成と展開。漫画で得た知識でイキるのはいかがなものかと思いますが、エンタメと「知るきっかけ」の両立という意味で大変優れたコンテンツです。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

バーターで、主人公がデウス・エクス・マキナな装置であること、作劇がキレイすぎてややご都合主義的なのは、致命的な錯誤や恣意的な思想誘導がない限りは、目を瞑るべきかなと。物語の作りや発想が根本的に違うというか、違う定規が必要な作品なのかなと思います。

 

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