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#葬送のフリーレン 10巻 評論(ネタバレ注意)

80年前、魔王を打ち倒し平和をもたらした伝説のパーティ。

勇者ヒンメル。戦士アイゼン。僧侶ハイター。魔法使いフリーレン。

王都に凱旋した彼らには、世界を救った功績に対する歓待と、その後の長く平和な人生が待っていた。

80年が経ち、勇者も僧侶も寿命で世を去り、戦士のドワーフも老いた中、長命種エルフの魔法使いフリーレンだけがひとり変わることなく魔法を求めて彷徨いながら、かつての仲間の死と追憶に触れていく異色のファンタジーもの。

『葬送のフリーレン』10巻より(山田鐘人/アベツカサ/小学館)

予知能力者が回想シーンの「中」からメタや未来に対して語りかけてくる描写、ゾクゾクしますね。

ヒロインからしたら一瞬にすぎない間しか同じ時間を過ごせない、エルフと人間の寿命と時間感覚のギャップの哀愁を淡々と。

フリーレンに、弟子の魔法使いフェルン、戦士のシュタルクを加えた一行は、一級魔法使い試験を経て、危険なため通行が禁止された北部高原へ。

北部高原、ヴァイゼ地方。

『葬送のフリーレン』10巻より(山田鐘人/アベツカサ/小学館)

50年前に魔族の幹部・七崩賢の一人「黄金郷のマハト」によって丸ごと黄金に変えられた城塞都市ヴァイゼ。「黄金郷のマハト」はフリーレンがかつて敗北したことのある11人の魔法使いの1人だった…

というわけで、勇者ヒンメル一行に討伐された魔王の配下だった「黄金郷マハト」討伐編。

たとえ言葉は通じてコミュニケーションが取れても、つくりが違いすぎて価値観を共有できない、人間と魔族。

にも関わらず人間に興味をもってしまったマハトが、今なお黄金郷と化したヴァイゼで暮らし、侵入者を殺し続ける理由。

『葬送のフリーレン』10巻より(山田鐘人/アベツカサ/小学館)

今巻では結構な尺を割いて、城塞都市ヴァイゼに関わるマハトの回想を、「フリーレンがマハトの記憶を解析している」というテイで。

「悪」も「罪悪感」も「正義感」も理解できないマハトが、それらを理解しようとヴァイゼでやってきたこと。

近年は「悪意ではなく、人倫を理解できない者」を表現する上で「サイコパス」という言葉がよく使われ、マハトの容態はそれに近いんですけど、サイコパスにはサイコパスの合理性があるので、描写に尺と時間をかければその合理性は部分的に説明・理解はできる、ということなんかな。

『葬送のフリーレン』10巻より(山田鐘人/アベツカサ/小学館)

そもそも「人間以外」なので、厳密にはサイコパスとは違うんでしょうけどというか、冨樫義博なんかはこの辺の「人倫の欠如・喪失」とそれに対する共感の機微を

『幽★遊★白書』17巻より(冨樫義博/集英社)

短いページとセリフで端的に表現するのが上手ですよね。

魔族や妖怪がそれでも群生生物として社会性を獲得してるのは、現実でも陸上や海中で群生するプレデターたちが居るので不思議ではないんですけど、人倫に欠ける「人間以外」の魔族の中でも更にイレギュラーなマハトや今巻登場のソリテールの、人間に対する興味・関心や検証手法は、創作の中で自ら創った魔族と対峙する作者自身の合わせ鏡になっていて、面白いなと思います。

マハトやソリテールが人間の生命を使った実験を行うのはいかにも非道なんですけど、実は作者がマハトやソリテールを「ただの魔族」に置かずに課した「人間に興味を持ってしまった魔族」という命題も、なかなか残酷だと思うんですよね。仙水に対した冨樫義博みたいに。

罪悪感を理解できたとして、雷禅が緩やかに自殺したように、宿命的にマハトも理解できた瞬間に自死するしかなくないか?

『葬送のフリーレン』10巻より(山田鐘人/アベツカサ/小学館)

特にソリテールは「魔族側のフリーレン」とでもいうべきポジションから、ヒロインのフリーレンを解析・解説するという非常にユニークなキャラ。彼女が語る言葉は常に刺激的で面白い。

また、魔族や妖怪との差異から「人間とは」「フリーレンとは」を浮き彫りにしようとする試みと、絡み合うように少年漫画らしいバトル展開の行方にも非常にワクワクさせられる点も、

『葬送のフリーレン』10巻より(山田鐘人/アベツカサ/小学館)

「冨樫的」という表現は不適切かもしれないですけど、どこか共通するものを感じる作品。

早く続きが読みてー。

 

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