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#341戦闘団 1巻 評論(ネタバレ注意)

『ブラック・ラグーン』で著名な広江礼威の新作は、架空の大陸の架空の国家同士の戦争を舞台にした架空戦記もの。

戦車が走りプロペラ機が制空する戦場、現実世界のWWⅠ〜WWⅡ相当の時代観。

クラーフェルト大陸、モルダニア帝国領クラーフェルト自治領。

敵国クラスナヤ共和国連邦の侵攻を受け、モルダニア帝国は劣勢を強いられていた。

戦死により空席となっていた、最前線の独立混成第341戦闘団の指揮官の椅子に新たに送られてきたのは、白いワンピースに日傘をさした「お嬢さん」、帝国議会議長シャウマハ公爵の令嬢、エルミナ・シャウマハ騎兵少佐。

『341戦闘団』1巻より(広江礼威/小学館)

実戦経験豊富な341戦闘団の幹部たちは、大貴族のコネと促成育成で実戦経験もなく佐官・指揮官として前線に配置された彼女を、いかに無難に無害に生き残らせる「お飾り」として遇するかに頭を悩ませていたところ、総司令部から新たな作戦発動の指令がくだる。

かくして、実戦未経験の「お嬢さん」を新たな戦闘団長に、341戦闘団の「戦争」が始まったのだが…

という、架空戦記ながら血と硝煙と油の匂い、というより焼けたり腐敗したりした死体の匂いがする、ハード志向寄りの戦争フィクション。

『341戦闘団』1巻より(広江礼威/小学館)

同じく若い女を指揮官に置いた作品ながらバンバン人が死んでゴロゴロ死体が転がり、パッと見、謎カーボンで守られた戦車による戦車戦を「戦車道」スポーツエンタメとして描いた『ガルパン』シリーズに対するアンチテーゼに、見えなくもないです。

『ガルパン』と同じく若い女を主人公にし、彼女が初体験の戦場で指揮官として活躍し戦果を収めて生き残るミラクル展開は、「普通のサラリーマン」が覚醒して早々にギャング/マフィア界隈のの頭脳派キーマンに収まった『ブラック・ラグーン』のロックともどこか共通していて非常にエンタメ的ですが、戦場に散らばる生々しい死体片、怯懦するヒロイン、将兵からの不信、全体像がわかりにくい戦況描写と、ゆるふわと程遠いハード寄りというか、意図的に非エンタメに寄せている部分も同居する作品。

『341戦闘団』1巻より(広江礼威/小学館)

「でも、そうはならなかった」

「ならなかったんだよ、ロック」

「だから、この話はここでお終いなんだ」

との無常で無情なセリフが有名である作者の持ち味、そのままの作風。

エンタメとしてソフトな美女を主役に据えないと売れないというのなら、その代わりに彼女に戦場のハードな悲惨さを忖度なく叩き込んで、そのギャップを利用させてもらう。

という、ヒロインに対するある種のサディズムを伴った「戦争わからせコンテンツ」ではあると思います。

『341戦闘団』1巻より(広江礼威/小学館)

不親切なことに読んでて戦況が見えにくいのも、戦争がゲームでもなければ「電子戦」が発達した時代でもないこと、「戦場の不親切さ」の反映で、限られた視界と入り乱れる無線連絡から戦場の状況を脳内で再構築する「戦場空間把握能力」を備える人が読めばおそらく俯瞰の戦況図が脳内で再現される、ヒロインの能力の特殊性の演出なのかな、と思ったり。

自分には何も見えないので雰囲気で読んでますが。

当然、今この時期にこういう作品が出版されることについて、作者も出版社も期するものがあろうかと思いますし、戦争や兵器が安易にソフトにエンタメの具として描かれることへの作者の反発すらも勝手に幻視してしまいます。

ただ、結局のところ本作も美少女(美女)をメインに置かざるを得ず、貴族令嬢のお嬢様指揮官をヒロインに置いた成長物語で、かつ少なくとも終盤までは彼女を死なせず活躍させなければならない宿命を考えると、たとえかのバラライカを生んだハードボイルドな作家の作品であっても「戦争エンタメ」の匙加減の範囲でしかなく、「むさいオッサンばかりの作品は売れない」商業漫画のある種の限界も感じます。

かくいう自分も、この漫画がたとえかの広江礼威の作品であっても、「むさいオッサンばかりの作品」であったら買って読んでないだろうと。

『341戦闘団』1巻より(広江礼威/小学館)

「戦争」はそれ自体が様々な矛盾を孕んだ概念ですが、この作品も

「最前線で戦う兵士が最も戦争を嫌っている」

「戦友愛もサバイブすることも美徳だが、戦場においてはそれこそが殺し合いを維持する」

「反戦を語るにあたって戦争の描写が説得力を持ってしまう」

「戦争は悲惨で忌むべきことだが、同時にしばし、かっこ良く映る」

などの矛盾をしっかり孕んで描かれているように思います。

とね、時節柄どうしてもウクライナ情勢を絡めて「戦争ものの、あるべき論」とか考えてしまって、戦争もの漫画を虚心にエンタメとして楽しみづらいご時世ではあるんですけど、ハード寄りの戦記ものとしては、そのわかりにくさも含めて1巻だけでハリウッド映画のような三幕構成?で、よく出来ている戦争漫画。

戦争もの漫画というのはある種の「わかりにくさ」が必要だと自分は思っていて、それをしっかり具備している作品。

作者の持ち味である洋画の翻訳のような芝居がかったセリフ回しもハマっていて、キャラも魅力的です。

美女を主人公にした娯楽作品ですが、少なくとも戦争の罪や人を殺し殺されることの怖れをあまりヒロイズムで脱臭し過ぎず(むしろ誇張するように)描いていて、「戦争をスポーツのように楽しむ後ろめたさ」とは距離を置いた作品。

ヒロインが初陣の戦場で恐怖に震える姿、気力を振り絞って立ち上がる姿、生き残って安堵して腰が抜けて号泣する姿、どうしようもなく無様で人間らしく、それが不謹慎なことにとてもチャーミングに映ります。

『341戦闘団』1巻より(広江礼威/小学館)

何を受け取るかはまあ、我々読者次第でしょう。

 

 

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(選書参考)

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