#AQM

I oppose and protest the Russian invasion of Ukraine.

#売国機関 8巻 評論(ネタバレ注意)

腹立つ笑顔だなw

東西の大国に挟まれ緩衝国として強制的に戦火の舞台にされた小さな共和国に、両大国の都合で今度は強制的に平和が訪れて一年。

強制された屈辱的な平和、両大国と唯々諾々と安保条約を結ぶ政権を、不満を募らせる左右の過激派は「売国奴」と罵り、暴徒・テロリストと化す。

『売国機関』8巻より(カルロ・ゼン/品佳直/新潮社)

前線で血を流し友を亡くしながら平和を勝ち取った「塹壕貴族」たちは、平和をすべての脅威から死守するべく、特務機関・軍務省法務局公衆衛生課独立大隊「オペラ座」、蔑称「売国機関」を設立。「平和の敵」と化した市民たちへ銃を向けた。

「幼女戦記」原作者による情報・防諜・公安もの。

前巻、対王国強硬派と親王国派の野合による連立政権が発足。

今巻は、クーデター話。ひっどい話だなコレw

『売国機関』8巻より(カルロ・ゼン/品佳直/新潮社)

共和国軍内でクーデターを起こすことになる張本人たちをよそに、それぞれが一枚岩ではない共和国・連邦・王国のそれぞれの黒幕勢力が、利害が一致しないにも関わらずそれぞれの目的でクーデター計画を明に暗にサポート、そのすべての思惑を外して偶発的な事故をきっかけに暴発的にクーデター発生。

みんなが個別それぞれにちょっとずつ後押しした効果に、神の一手の最後の後押しも加わって、誰も望んでいなかったタイミングでのクーデター暴発で、関わったすべての国家の黒幕勢力がそれぞれに思惑を外して慌てふためく事態に。

『売国機関』8巻より(カルロ・ゼン/品佳直/新潮社)

こういうのも「スタンド・アローン・コンプレックス」っていうのかしらね。前巻の連立政権発足以来、喜劇だわw

真面目にクーデター起こす人たちがむしろ可哀想。

今巻表紙の連邦のバルヒェット大佐が独り安全圏から高みの見物で、作者視点というか読者視点というか。何が可笑しいって、あの人作中でも一、二を争う切れ者っぽいのに、論評してるだけで特に何にもしてないんですよねwww

「何もしない力」とでもいうか、全員がそれぞれに「状況を何とかするために何かしなければ」と動くことで状況が悪化する愚かしい状況の中、重要なポジションを占めるだけ占めて、しかし独り何もしないことで却って声望と評価を高めて、最後にちょこっとだけ動いて漁夫の利すら得る、というのはぜひ見習っていきたいw

SNSとかでも「何を言うか」より「何を言わないか」の方が重要だったりしますもんね。

『売国機関』8巻より(カルロ・ゼン/品佳直/新潮社)

同じ原作者の作品『幼女戦記』と比べてアクションは地味ですけど、人の世の陰謀劇・政争劇、複雑な情勢の機微が持つ生々しい滑稽さの描写にかけては、すくなくとも漫画においては当代一の作品。

作為と偶発の混合具合の生々しさでちょっと『銀河英雄伝説』や全盛期の士郎政宗作品を思い出しつつも、全員がそれぞれに企んだ結果の誰も望んでなかった結末の喜劇、という意味では、三谷幸喜作品を連想しちゃいますね。

『売国機関』8巻より(カルロ・ゼン/品佳直/新潮社)

起こっちゃってること自体は笑い事ではないんですけど。

 

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