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#これ描いて死ね 3巻 評論(ネタバレ注意)

東京から南へ120km、伊豆"王"島で暮らす女子高生・相(あい)は、島の貸本屋の漫画を全て読み尽くすぐらい漫画が好きだった。

心酔しカルト的な人気を誇る漫画家がコミティアで新作を頒布するとSNSで目にした相は、意を決してジェット船で東京に上京、ビッグサイトに赴く。

コミティアでみんなが「自分で漫画を描いている」ことに衝撃を受けつつ、たどり着いた目当てのブースで新作を頒布していた憧れの漫画家「☆野0」先生は、島で相の生活を厳しく指導し、ことあるごとに「漫画なんてくだらないから読むのやめろ」と口酸っぱく言ってくる手島先生だった…

『これ描いて死ね』3巻より(とよ田みのる/小学館)

で始まる、「漫画家もの」「女子高生部活もの」。

1巻あとがき漫画によると作者は実際、幼少期のみながら伊豆大島の出身とのことです。

顧問と仲間を集めて部を設立し活動を立ち上げる「部活もの」の王道展開、『まんが道』もかくやという漫画への憧れを、シンプルな展開とシンプルな絵と軽妙なコメティ展開に、力強い感情表現とおどろおどろしい情念を込めて。

およそ婉曲や見栄という概念が存在しない世界観のような、恥も摩擦もまったく怖れない、力強いストレートなセリフと感情表現。

『これ描いて死ね』3巻より(とよ田みのる/小学館)

前巻までで、登場人物たちの出会いや、同人誌制作やイベント参加の「初めて」のエピソードを連ねて作品の骨格を示したのに対し、今巻は比較的「日常巻」。

島での生活、学校での出来事などを通じて各キャラクターを深掘りする巻。

創作のインプットに地元の島の名跡探訪、先生から受け継いだ創作ノート、SNS投稿デビューと「見知らぬ読者」との出会い、文化祭と藤森の重度シスコン姉、ヒカルンの母親の秘密とその天敵。

巻末には恒例、もう一人の主人公、若き日の手島先生の漫画家人生の断片。いや、今でもけっこう若いけどな。

『これ描いて死ね』3巻より(とよ田みのる/小学館)

ここから何があって漫画家を辞めて教師になったのか、すごい気になるね。

イベント回のように燃えるような描写じゃない代わりに、「クリエイターを志すということ」をいろんな切り口で、熾火のようにハートウォームなエピソード群。

「各キャラを深掘り」といいつつ、2回に1回は手島先生に掘り当たる気もしますねw

どれも興味深いですけど、出色は赤福とヒカルンの話かなあ。

『これ描いて死ね』3巻より(とよ田みのる/小学館)

クリエイターものでレギュラーで仲間なのに、赤福は「クリエイターの苦悩」に全く寄り添わずに自分を「一消費者」「一大衆」に規定して、「それでいて」というか「だからこそ」というべきか精神的に極めて健康で、「クリエイターもの漫画」のレギュラーキャラとしてはちょっと異質。

『映像研』の金森氏も非クリエイターでドライでタフで、クリエイターを客観的に突き放した視線がありつつも、プロデューサーとしてまだクリエイターに寄り添ってんですけど、

『映像研には手を出すな!』7巻より(大童澄瞳/小学館)

赤福は天然に「読者」「消費者」に突き抜けて徹して「あまりにも大衆すぎ」て、本当は漫画の読者の分身のポジションのはずなのに、逆に感情移入できねえっていうw

この環境に居続けながら、まるで「漫画を描きたい」という欲求を全てヤスミンに吸い取られたかのようというか、自分の欲求に正直な悟空やルフィのような主人公キャラの「空(くう)」を、ヤスミンと赤福に分割したかのように「描きたい空」と「読みたい空」。「クリエイターもの」としてはラスボスだろコイツw

その結果、部活の人間関係のバランス取れてなんか良いチームになっちゃってるという。

ライバルにも戦友にも師匠にも弟子にもならない、MOBでもよかったはずのポジションに敢えて突き抜けて「大衆」として、でも仲間として配置された赤福に、

『これ描いて死ね』3巻より(とよ田みのる/小学館)

なにやらせるつもりなのかなーというのも、ちょっと先々が楽しみ。

 

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