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あ、今日読んだ漫画

#望郷太郎 11巻 評論(ネタバレ注意)

『デカスロン』『へうげもの』の作者の現作。

『望郷太郎』11巻より(山田芳裕/講談社)

突如地球を襲った大寒波に際し、財閥系商社・舞鶴グループの創業家7代目、舞鶴通商のイラク支社長・舞鶴太郎は、駐在するバスラで極秘に開発させていた冷凍睡眠シェルターに妻と息子を伴って避難。1〜2ヶ月の冷凍睡眠で大災害をやり過ごす心算だった。

しかし太郎か目を覚ますと、隣で眠っていた妻も息子もミイラ化し、装置が示す数値はあれから500年が経過していることを指し示し、シェルターの外には廃墟と化したバスラの街並みが広がっていた。

人が絶えたように見える世界を前に太郎は、自らの死に場所を娘を残してきた故郷・日本に定め、長い旅路を歩き始める。

旅路で出会う、わずかに生き残った人類たちは、過去の文明の遺産を再利用しながら、狩猟と採集で食いつなぐ原始に還った生活を営んでいた。

で始まるポストアポカリプスなサバイバルなロードムービーもの。

『望郷太郎』11巻より(山田芳裕/講談社)

としてスタートした作品ですけど、もう既にジャンルが少し変わったというか本質が表れていて、実態は原始環境における経済もの、「金と人間」をテーマにした作品に。

周辺の村々を経済と軍事で支配する大国、マリョウ王国へ。

作品の大目的は日本に帰還して、残してきた娘の消息を探すことだったと思いますし、地理的には日本にだいぶ近づいてきているんですが、モンゴル自治区のハイラルやフルンボイル(作中ではマリョウ王国)で、足止めというかなんというか。

マリョウ王国では、国王を頂点にした階級社会でありながら、国王から独立した中央銀行、そして国王から独立した議会と選挙、間接民主主義が既に始まっていた…

『望郷太郎』11巻より(山田芳裕/講談社)

ということで、旧知ながら国母となったプリを頼って、ヤープト村をマリョウ王国の対等な外交相手に認めさせることが目的…だったはずが、クエスト形式に仕事が増えて膨らんで、気がつけばマリョウ王国の議員に立候補しつつ、紙による金銭(マー)・紙幣の発行に着手、経済、政治、軍事、ときて宗教も絡んでくることに。

選挙活動、それ以上に紙幣の普及活動と、既得権益を持つ対抗勢力との暗闘。

マーとは、通貨とは、カネとは一体何なのか。

マリョウ王国を舞台にがっつりと権力闘争が繰り広げられますが、闘争の戦線が多方面に拡大して、複雑ではないにしても複線で同時進行、終盤で絡み合ってきそうというかどう考えても絡み合う感じ。

『望郷太郎』11巻より(山田芳裕/講談社)

・選挙戦

・戦車戦

・紙幣発行権の争奪戦

の3軸に、それぞれのキャラクターの思惑が絡んで、というところ。

太郎の切り札も当初は「人類社会最盛期の知識」「マーの原石」「盟友・パルの武勇」だったのが、その後の「紙幣発行」に加えて今巻でとうとう「ガソリンの精製」「ガソリンエンジンの復活」とずいぶん増えましたが、それらを総動員しての多方面での総力戦。

複数の縦軸で多くのキャラの思惑が絡み合いながらも、一本に収束していく気配が見えたところで、前巻で戦車戦が、今巻で選挙戦が決着。

綿密に張ってきた伏線と何の関係もないパンダがサプライズニンジャ的に戦車戦の結末を左右したのに続き、選挙戦も決着はついたものの権力闘争に終わりは見えず、最終的には武力衝突に。

漫画・エンタメとしてクライマックスにアクションシーンを持ってきて、極限状態で主人公や脇役たちの胆力が試される展開は正攻法ではありますが、作品のコンセプトやメッセージを考えると

「やはり暴力…!! 暴力は全てを解決する…!!」

的に見えるのは、それでええんか、という気もしなくはないですがw 紙幣発行や選挙での苦労は一体…w

『望郷太郎』11巻より(山田芳裕/講談社)

エンタメとしては

「太郎が復活させたガソリンエンジン vs 温存されていた古のドローン爆弾」

はスペクタルで面白いので、楽しんで読んでる身としては別に良いんですがw

どれだけ発展・発達した気でいても、現実の現代人類が

「やはり兵器…!! 兵器は全てを解決する…!!」

の段階に留まっていることへの風刺・皮肉と見えなくもないです、というと少し贔屓が過ぎるでしょうか。

作品的にはマリョウ国編の終わりが見えてきて、次章・最終章であろうヒューマの国編(日本編)の足音が聞こえてきました。

『望郷太郎』11巻より(山田芳裕/講談社)

太郎の出身地で「太郎が日本に残してきた娘」の設定が残ってますし、太郎の子孫がいるかもしんないし、コールドスリープしていたのが太郎だけとも限らないし、と、ダイナミックなギミックの可能性がたくさん残されている章で、「作者が描きたかったこと」的には1巻を除くマリョウ国編までは「前座・前振り」に過ぎない可能性も高く、楽しみですね。

 

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