女子高生のゆかりはお台場のタワマン住まいだったが、いい加減な父親はタワマン購入の借金をゆかりに押し付けて失踪、音信不通、行方不明。
なんで糸電話なのかを説明すると漫画で4ページぐらいかかるので省略します。
借金取りのヤクザが取り立てに押しかけ、高校の授業料にも困窮するゆかりは、父の残したガラクタ「デウス・エクス・マキナ」の力で1982年にタイムスリップ。
漫画喫茶に泊まろうと1982年の秋葉原にたどり着いたゆかりは、存在しない漫画喫茶の代わりに、コンピューターゲーム黎明期の熱狂に遭遇。
その様子をスマホで撮影し現代に帰って動画配信して一儲け、借金返済・授業料納付する金策を思いつくが…
『こち亀』の秋本治の連作短編形式の新作は、JKのタイムスリップもの。
「おっさんの描く若い女は、作者のエロ承認願望が投影されててイタい」
という話は昔からあって、平成の作品であっても官能小説で女子大生が「堪忍してちょうだい」とか言い出す魔境です。
秋本治は国民的長寿漫画『こち亀』を描いたベテラン大作家、『こち亀』に登場した女性キャラのみならず女性主人公の作品も複数描いており杞憂かとも思いますが、「JK主人公」はさすがに大丈夫なのか…?
と読む前に少し心配したんですが、やはり杞憂です。
ビジュアル面で言うと、多くの漫画家のように秋本治にも「本命ヒロイン顔」パターン(『こち亀』の麗子や纏)がありますが、本作ヒロインはその作家の全力投球の美女ビジュアルたる「本命ヒロイン顔」から完全にかけ離れたモブ顔で、「JKをエロ可愛く描こう」という気が傍目から見てもまったくありません。
『鳥獣戯画』に混じっても溶け込みそうなモブ顔。
キャラクター・性格面で言うと、
「昭和にタイムスリップさせて、作者とJKヒロインの世代ギャップを埋める作戦か」
と思ったんですが、もっとすごかった。
「ゲーム編」、「フィギュア編」、「プラモ編」、「特撮編」と、金策だったりお使いだったりで昭和にタイムスリップしては、当時の「男のホビー趣味の世界」の現場の熱狂に飛び込んでいくんですが、だいたい解説役のオタクなおっさんがいてずーーっと喋ってるので、JKヒロイン、あんまセリフがありませんwww
ゆかり、「いいえ」しか言ってねえwww
『こち亀』にホビー回・趣味回・オタク回、両さんが趣味のウンチクをずーーっと語ってる回がちょいちょいありましたが、あれの聞き役にヒロインJKを、語り役をゲストのオタクなおっさんがやってるだけです。
狂言回しのヒロインがJKなのは、誰かに「JKヒロインの方が売れる」と言われて半信半疑でイヤイヤ描いたようにしか見えないw
ということで、『こち亀』のレトロ趣味回が好きだった人には割りとブッ刺さるんじゃないかと思います。
この調子で、ゆかりが一言も発さない間にオタクおっさんが一方的に5ページぐらい延々趣味のオタク語りをまくし立て続ける展開が度々発生。
その代わり「JKヒロイン」の「萌え」や「エロカワ」を求めて読むと「金返せ」と暴動になりかねない。そういう漫画ではありません。
漫画としては、タイムスリップの整合性・タイムパラドックスへの忌避感・家族観や倫理観や社会常識などのリアリティへの希求、など「その辺の漫画」が気にするポイントを豪快に野放図にぶん投げ捨てたギャグコメディ。
「第2のタイムスリッパー」なんて重要な役回りが、2話目にして早々に、しかもモブとして登場。
タイムスリップものって、そんなことしていいのか…w
しかもこのおっさんの最後…タイムパトロールが見たら発狂しそう。
大原部長が戦車で壁ぶち破って「両津はどこだー!」なナンセンスなノリそのままで、近年の「よくできた漫画」ばかり読んでいる身からすると、
「描く奴も読む奴も、お前ら細かいとこばっか気にして小さくまとまってんじゃねえ!
せっかく漫画なんだから好きなことを描け! もっとめちゃくちゃをやれ!!」
とお叱りいただいてるような気分にさえなります。
表題作4編の他、読切短編2作。
キャリア官僚に嫌気がさして退職Uターンしたエリートイケメンが、過疎る地元で起こすウルトラ町おこし、『デフォルマシオン』。
キャリア警察官の女性エリート官僚の寿退職前の最後の仕事は、どっかで見覚えのある変態刑事たちとのパリ出張だった、『七人も刑事』。
お腹痛いwww
やること起こることのめちゃくちゃさが豪快にバカバカしくて、リアリティがどうのとかツッコむ気も起きない、笑うしかない、というのはもはや漫画家としての人徳かもしれないw