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あ、今日読んだ漫画

#魔都精兵のスレイブ 17巻 評論(ネタバレ注意)

各地に突如出現した門の先に広がる魔都。人を襲う鬼が巣食い脅威となっていた。政府は能力者の女性で構成される「魔防隊」を組織し鬼に対抗。

男子高校生・優希は帰宅中に魔都に迷い込んだところを魔防隊七番組組長・京香に救われる。

彼女の能力は生命体の潜在願望を叶える義務と引き換えに奴隷として使役・強化し戦わせる能力だった。

平たく言うとバトルでこき使われる代わりに勝ったらエッチなご褒美な感じだった。

『魔都精兵のスレイブ』17巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

和月のバトル絵、GS美神の設定とキャラ、ハーレムギャルゲー要素、ジャンプのバトル漫画の定番展開、という感じ。あと乳首!

美少女ばかりの魔防隊に10人ぐらい美少女な組長たちがいまして、使役主によって戦闘フォームを変える便利下僕ファイターな主人公が、順々に彼女たちに貸し出されて共闘しエッチなご褒美をしてもらう、というギャルゲーともエロゲーともつかぬ建て付けで、一巡したらラストバトルになるんかな。

「八雷神」と称される敵幹部を5人まで減らしたところで、魔防隊のトップ「総組長」を選出する「総選挙」に。

『魔都精兵のスレイブ』17巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

バトル&エロが中心のジャンプらしいバトル漫画ですが、今巻は普段と違った興味深い情報がいろいろと。

漫画に現実の事情を当てはめてケチつけるのは野暮というものですが、作品がリアリティのために具体的な情報を出してきた以上、読むにあたって「ケチをつける」ではなくその整合性を想像で埋めつつ真面目に考えたい。

①魔防隊には醜鬼を束ねる八雷神との講和を実質的に決定する権限がある

②魔防隊の意思決定権を持つ総組長は、組長(9人)・防衛大臣・防衛監察官の11人の投票で決定される

「魔防隊とはなんなのか」という話です。


①「魔防隊の八雷神と講和する権限」ですが、その重要性を鑑みると、国家機関・行政執行機関であれば国会の審議を経た立法か、最低限、閣議決定で決まるべき話です。

魔防隊の役割は、八雷神(醜鬼)を犯罪組織と捉えるなら警察、外敵と捉えるなら自衛隊(他国における軍)に相当しますが、警察にも自衛隊にも、犯罪組織や外敵と勝手に和睦・講和する権限はありません。

魔防隊は武力の行使とそれによる抑止力を旨とする武力組織ですが、警察や自衛隊と違って民主国家である日本国の文民統制の埒外にあるようです。

(形式として魔防隊の決定を内閣等が承認(追認)する形式上の手続きはおそらくあるはず?)

総組長選挙の選挙権者に防衛大臣と防衛監察官が名を連ねていることから、防衛省の管轄ではあるようですが、その影響力は「最高権限者選定の投票権の2/11」という、小さいものです。

魔防隊はまず、武力として大きすぎ、権限も巨大で、かつ独立性が高い組織です。


②「魔防隊の総選挙の仕組み」です。

軍や警察のトップは通常、上位の政治家などから任命されるものですが、その候補者選定は組織内の評価・査定によるもので、その過程で合議により決定・内定されるのは珍しくはないと思います。特に魔防隊は「組織・業務の性質上、現場の意見が重視される」と今巻中でも説明されています。

ただ、候補者自身を含むほぼ内輪のオープンな記名投票で最終決定される、というのは相当特殊です。

納税者で主権者たる国民の意思、またそれを体現する政治の意思は、前述のとおりわずか「選定投票権の2/11」のみです。

魔防隊の武力と権限の大きさを考えると、「総理大臣の指名を国会が承認する」ぐらいが妥当じゃないかな、と思います。


①②併せて「魔防隊とはなんなのか」を考えると、「国に所属してないんじゃないか」という気がしてきます。

設立こそ国によってなされ、防衛省が管轄し小なりとは影響力も持ってはいますが、行政・執行機関ではなく、独立した民間組織なんですかね?

桃源郷をはじめとする魔都内の設備類も隊内の能力者によって建設されているようですし、予算に対しても税金投入されてないか、せいぜい補助金ぐらいなんじゃないかな。

「魔防隊」という名称のせいで、自衛隊に類似する国家の行政執行機関のように誤解してしまいますが、実態は日本国政府と協調しつつ自主的に魔都を警備し治安を維持する、民間の「特殊能力者協会」で、日本国政府の「同盟組織」なんじゃないのかな、と。

現実で言えば、装備とスキルを持ち自主的に行政と協調し害獣駆除に当たる民間団体ながら、行政の対応への不満・不信からクマ駆除の依頼を拒否するに至った(そうする自主決定権限を持つ)ことで近年話題の猟友会。

b.hatena.ne.jp

漫画で言えば、同じく選挙が行われる『ハンター』のハンター協会、あれも国家に所属する国家機関じゃなくて、国際自治組織というか国際ギルドですよね。

国家の依頼・要請で国際的に諸国の事件や紛争に介入する独立組織で、ゴンから見たら外国人のハンゾウも普通に会員であるように多国籍だし、選挙で会長決めるし、会長に任命し命令する上位の政治家いないし。

『魔都精兵のスレイブ』17巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

ピリペンコ様による布教(物理

魔防隊の人事権(投票権)にわずかに防衛省が入ってるのは、半官半民的に協調のパイプと監視のためなのかな、と。株主だったりしてw

今回、投票権を持ち会議に参加している防衛大臣・防衛監察官が、残念ながら山城恋シンパのようなのでちょっとわかんないんですけど、例えば山城恋の「八雷神との和睦・講和」の方針に、防衛大臣自身、あるいは防衛省、あるいは総理大臣、あるいは国会、あるいは世論・国民・有権者が反対した場合、何が起こるのかな、というのは大変興味深いです。

最悪、魔防隊と八雷神が同盟して、「現場を理解していない」日本国と対立しますよねコレ。魔防隊と八雷神による、魔都独立。

現に八雷神の降伏自体が遅滞工作・分断工作で、山城恋の「八雷神の降伏を受け入れる」という方針が「反対されるべき誤り」であることが、既に描写されてますし。

『魔都精兵のスレイブ』17巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

魔防隊は、日本国の文民統制においては武力と権限が巨大すぎてチグハグで、意思決定権者を決める人事のプロセスも即断即決を由とする武力集団にそぐわない「非効率と、衆愚と、党派の対立」のリスクを持つ「身内の民主的な人気投票」というチグハグなものです。

チグハグさが二重に重なることで、マイナスとマイナスを掛けたらプラスに転じているように、かえってバランスが取れてるのかな。

現に京香が山城恋の独裁を監視し制約する機能を果たしてるし。

山城恋がまた総組長として特殊すぎて、制度上の仕組みをわかりにくくしている面もあります。

下手したら他の魔防隊全員を合わせたより強くないですかこの人w

組織的な武力と権限、個体としての武力のすべてが最強な上に、総理大臣を目指してるってのも、誰にも止められない独裁者コースでだいぶデンジャラスですけど、政府は基本的に山城恋の能力とカリスマ性に全幅の信頼を置いて、心酔すらしているようです。

『魔都精兵のスレイブ』17巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

リスク管理を考えると、武力も権限も強すぎる山城恋が日本国を裏切って八雷神と手を結ぶ場合に備えて、政府の判断でいつでも彼女を拘禁・暗殺、魔防隊員を拘禁・解体できる仕組みを用意しつつ、総選挙のような機会には対立候補(今回でいうと京香)を抱き込んで肩入れし、山城恋の影響力を削ぐ動きをするのが常道です。

が、山城恋が神を圧倒するぐらい個として突出しすぎていて、

「もう全部、山城恋に任せちゃえばいんじゃないかな!」

状態になるのもわからんでもない。

 

などなど、普段の巻では考えないようなことを考えさせられて、大変興味深かったです。

まあ、こうやって設定の整合性だのリアリティだのについて考えるのは楽しいんですけど、重箱の隅つつい(たつもりになっ)て漫画が面白くなった試しがないというか、漫画の面白さは必ずしも読者一人一人が考える整合性やリアリティに比例するものでもなく、多少の無茶やご都合や「嘘」、「納得いかなさ」があっても、「漫画が面白いこと」の方がよほど大事です。

整合性やリアリティを気にするのは程々にしておきたい、とも思います。

今巻も出番こそ少なくご褒美シーンもなかったけどピリペンコ様可愛かったし、「魔防隊の位置付け」とか「日本政府との関係」なんかぶん投げて踏み倒すことでピリペンコ様の出番が増えるなら、そっちの方が嬉しいし。

『魔都精兵のスレイブ』17巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

選挙はまあ、しれっと美羅さんが立候補してるのがキーなんでしょうね。

 

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