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あ、今日読んだ漫画

#推しが死んだ朝 【完】 評論(ネタバレ注意)

「推し」にまつわる2篇を収録。

『日々、推す』前後編。

『推しが死んだ朝』全四話。表題作。

 

『日々、推す』

女子高生の日々希(ひびき)は、親友の姫麗(きらら)とつるんで、男性二人組ユニットの地下アイドル「アルカディア」、特に紫苑くんを推していた。

母子家庭で彼女を育てる母から倹約を口うるさく言われる日々希は、ファンクラブ会費、チェキ代、グッズ代、ファッション費用と金に困り、姫麗の勧めでパパ活に手を染め、湯水のように金を注ぎ込めるようになる。

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

その「推し活」の果て。

欲望や自制心の弱さが生々しく描かれた「ダメ人間もの」としてよく描かれていますが、作品としては自分はそんなに。

自分もソシャゲに100万課金したり趣味に浪費したりはしますが、生活のため「サバイバルの手段」ではなく「遊ぶ金欲しさ」のためにパパ活したり親の金を盗んだりする若い女性、というのは、同じ「ダメ人間」な自分にとっても「あるある」「わかるわかる」とシンパシーを抱くフックやきっかけが特にないんですよね。

「お母さん可哀想」と思いました。

あと「推し活」に限らず現代の娯楽は何かにつけ「大人(社会人)基準」で金がかかりすぎて、子どもには目の毒な世の中だなあ、とは。

 

 

『推しが死んだ朝』

23歳で舞台俳優・金森雅哉にハマり「一生推す」と心に誓った女「ゆこりん」は、

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

しかしその11年後、金森が29歳で引退したことで、心に穴が空いた。

50年後、結婚し子を成し孫も成長したにも関わらず金森をいまだ忘れられない「ゆこりん」は金森の地元・川崎の老人ホームに入居。

ホームの自室でささやかに当時のコンテンツを独り楽しんでいたが、廊下で「ゆこりん」にぶつかった同じホーム入居者の常に酔っ払いの老人・稲本が、金森に似ていることに気づく。

足を組んだ時の癖、髪を掻き上げる仕草、見れば見るほど、稲本は金森に似ているが…

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

『日々、推す』と同じ「推し活の果て」のお話でしたが、よかったです。

「推し活」を担う産業の多くが「金と性欲」で回っていることを露呈するニュースが、ジャニーズ事務所問題に続いて図らずも話題ですが、

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ビジネスになる手前、ひとの心のもう少しだけ内側、「推し」感情のもう少しだけピュアなところ。

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

推す側の

「一方的な感情じゃないか」

「迷惑なんじゃないか」

「搾取しているんじゃないか」

という良心的な後ろめたさにスポットを当てつつも、

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

クライマックスの「告白」シーン。

すべての推される側・推す側にそれぞれ色んな物語があって、「推し」という言葉の持つビジネス色が濃くなってきた昨今、それらの全てが美しい物語だとは思いませんが、幾千幾万の「推して推される物語」の中には、こういう物語も少なくなく在ったんだろうというか、在って欲しいというか。

「そもそもただの言葉の置き換えじゃん」というのは置いておいて、後年「推し」文化を振り返った時、

「要するにアレらは、憧れや欲望をビジネスの都合で効率的に換金するシステムでした」

とだけ総括されるのは、

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

ちょっと寂しいですよね。

 

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