#AQM

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#千年狐 四 ~干宝「捜神記」より~ 評論(ネタバレ注意)

「相手の世界を想像するのは
 怖いし面倒だし恥ずかしいもの

 私は他人にそれを求めていないわ」

(2巻、陽のセリフ)


「あなたの言うとおり
 歴史も過去も総てはいずれ文字と言葉になる

 真実など関係ない
 文人が書き記した通りに伝えられる
 文字や言葉にはそれだけの力がある

 後世の人間の筆ひとつで…
 異形の妖眚を凶兆から吉兆にすることもできた

 それなら捨て子などいなかったかも知れません」

(1巻、張華のセリフ)


古代中国で千年生きた九尾の狐・廣天たち精怪(妖怪)と人との交わりをコミカルにシリアスにロマンチックに。ジャンルレス。

廣天の幼い頃に命をかけて廣天を救ったにも関わらず、廣天の身を狙って暗躍する阿紫。

不可解な阿紫の動きを調べた廣天は、旅路の途中、母と阿紫の過去と廣天の出生の経緯を知る鼠・俔と出会う。

廣天の出生にまつわる、母・陽とその友人だった阿紫のエピソードが完結。

小国の後宮における陽の不可解な死。赤子の身で山中に捨てられた廣天。その直後に小国を滅した阿紫はなぜ廣天の身をつけ狙うのか。

本巻で廣天と阿紫が対峙し、その真相と解釈が語られます。

自分が「韜晦」という言葉を知ったのはご多分に漏れず「パトレイバー」(ゆうきまさみ版)の1巻でしたが、作者にしろ主人公にしろ、この「千年狐」ほど「韜晦」と言う言葉が似合う漫画はないように思います。

もっとエモーショナルな演出と描写で読者を泣かせることもできたけどそうせず、もっとも韜晦が似合う陽について、まるで作者と主人公が結託して更に韜晦することで、阿紫と読者に対してちょっとした「優しい嘘」をついたような、「ミステリーの解決編で嘘をついたまま種明かしをしない名探偵」を観るような、そんな印象。

作品に通底する、歴史において真実は「語りたい者の語りたいように語られる」ことに対する諦観と、作者の歴史に対する謙虚さが滲み出ているように思います。


「…勘違いでも全部妄想でも今まで楽しかったな

 俺のときめいた心は…全部ほんとうだ」

 

 

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