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#阪急タイムマシン 【完】 評論(ネタバレ注意)

おしゃれな雑貨店で働く引っ込み思案で他人とのコミュニケーションが苦手な女性・野仲は、おしゃれで可愛い職場や同僚の雰囲気になかなか馴染めずにいた。

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「阪急タイムマシン」より(切畑水葉/KADOKAWA)

編み物作家・FIKAのファンである野仲は、ある日の帰路の阪急電車の中でFIKAのデザインしたセーターを着ている同年齢の女性を見かけ、勇気を出し意を決して「私もFIKA先生のファンです!」と声を掛ける。奇遇なことにその女性は野仲の小学生時代の親友・佐藤だった。

これがきっかけで始まった毎週木曜日の出勤時間に阪急電車で一緒になる佐藤との会話によって、野仲が癒しと人付き合いの苦手意識を克服していく一方、佐藤には2つの秘密があった。

佐藤は野仲がファンであることを公言する編み物作家・FIKA本人であり、またその胸中には野仲に対する、ある「わだかまり」があった…

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「阪急タイムマシン」より(切畑水葉/KADOKAWA)

という、阪急電車を舞台に追憶、後悔、成長、一歩踏み出す勇気をテーマにした女同士の友情?の物語。

レーベルはKADOKAWAのBRIDGE、感情や人間関係の機微を繊細に描写した、本来のターゲッティングは女性読者であろう単巻完結の中編作品です。

記憶がイマイチ判然としませんが、柴門ふみ作品の「女ともだち」(たぶん自分は未読だと思う)のタイトルや、あと昔に中森明菜と安田成美が主演していたなんとかとかいうTVドラマなどを彷彿とさせるテーマ。

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「阪急タイムマシン」より(切畑水葉/KADOKAWA)

阪急電車(阪急電鉄)は創業一族が有名だったり、過去にプロ野球球団を所有していたり、宝塚歌劇や東宝グループなどの芸能関連企業を傘下にしていたりと、いろいろキャラが立った関西の私鉄です。

もうだいぶ前になりましたが、「涼宮ハルヒの憂鬱」の舞台になった高校は阪急沿線で、アニメ版では主人公たちが特徴的なえんじ色(小豆色)の阪急電車に乗って外出する場面も描かれました。

自分も関西に長く住んでいたので、通勤に利用する沿線でこそなかったものの、何回か阪急電車に乗りました。

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これは特別塗装された宝塚行きのルックスがものすごかったのでスマホで撮影したもの。

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この時期、宝塚歌劇の演目になっていたか何かを記念した、阪急カラーに「ベルばら痛車」仕様の車両でした。

本作も主人公こそ野仲さんをはじめとする人間たちですが、肝心なシーンは概ね阪急電車の車内や沿線を舞台に展開されるなど、作者の「阪急電車愛」を強く感じさせる作品。

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「阪急タイムマシン」より(切畑水葉/KADOKAWA)

普通に「いい話」になるんだろうと思って読んでいたら、満額のハッピーエンドとは言い難いラストで少々驚きました。

でも人生における譲れなさ・折り合いのつかなさ・やるせなさを思い起こさせられ、単なるハッピーエンドで終わるよりもよほど印象的で、それでいて切ないながらもポジティブに前を向いた結末でした。

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「阪急タイムマシン」より(切畑水葉/KADOKAWA)

何十年後かに再び阪急電車の中で笑って語り合えるような日が、またもう少し大人になった彼女たちに訪れると良いな、と思います。

 

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