#AQM

あ、今日読んだ漫画

#スーパーの裏でヤニ吸うふたり 1巻 評論(ネタバレ注意)

ブラック労働環境気味な会社で働く40代サラリーマンの佐々木。

日々の唯一の癒しは、会社帰りに寄るスーパーの2番レジ担当、清楚で可憐な山田さんの明るい営業スマイルだった。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』1巻より(地主/スクウェア・エニックス)

山田さん不在で「ファン活」が空振りに終わったある日、喫煙所を探す佐々木を手招きする女。

スーパーの裏の従業員用の喫煙スペースに佐々木を手招きした、後に「田山」という名であることが判明する喫煙者のその女は、「山田さんの同僚」を名乗り、佐々木が山田さんのファンであることも承知だった。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』1巻より(地主/スクウェア・エニックス)

かくして、スーパーの2番レジで清楚で可憐な山田さんの笑顔に癒される佐々木の日常に、その後スーパーの喫煙所でワイルドでジト目で「んははは」と笑う"はすっぱ"な田山さんと雑談するルーチンが加わった。

山田さんと田山さんが同一人物だとも気づかず…

という大人の?未満恋愛ラブコメ。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』1巻より(地主/スクウェア・エニックス)

ラブコメの設定にはどこか「漫画にするための嘘」(ご都合主義・無理)が盛り込まれるのが常ですが、この漫画の「嘘」は主人公・佐々木が、髪型・メイク・ファッション・口調を変えた2人のヒロインが同一人物であると見抜けないことです。

まあ、ちょっとした名人芸並みの女性がいたら、自分も見抜けない可能性もある気がしますけど。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』1巻より(地主/スクウェア・エニックス)

「山田=田山」は髪の長さまで変わるんですが、一応、幕間ページで仕組みが図解されてます。


「嘘」以外にも2022年のラブコメ作品として不利な点は抱えてまして、タイトル・表紙のとおり喫煙がキーモチーフになってる作品で、また佐々木が40代・山田が24歳と男女の歳の差が最低でも16歳差ある作品です。

自分も喫煙者でタバコ吸う女も大好きなのと、歳の差ものもアリなんで、どちらも適法ながら肩身が狭い世の中ですね。

にも関わらず、というべきか、だからこそ自分に刺さったと言うべきか、佐々木と山田(=田山)のやりとりがとてもチャーミングな作品。


「三角関係」「ハーレムラブコメ」など恋愛もの・ラブコメを更に分類する概念がある中、まだ分類・定義されていない(少なくとも自分がまだ認知していない)概念、

仮に「マスカレード(仮面舞踏会)」と名付けましょうか。

自分なんかはTRFのヒット曲を思い出しますが、「マスカレード(masquerade)」と題された作品はこんなにあります。

ja.wikipedia.org

「相手の正体を知らないまま恋に落ちる」あるいは「相手の正体を知らないふりで恋をする」シチュです。

歴史は古く作品を挙げるのもそんなに苦慮しないシチュで、えー、

・『シンデレラ』ガラスの靴のシンデレラに恋に落ちた王子

・『ローマの休日』正体を隠した王女と新聞記者

・『ロミオとジュリエット』仮面舞踏会で恋に落ちた敵同士の家柄の男女

・『グイン・サーガ』のマリウスとイリス

・『ガラスの仮面』マヤと速水真澄(=紫のバラの人)

古い作品ほど、どちらかの身分が高い(王族・貴族)パターンが多く、マスカレード展開はきっかけのみで「正体バレ」が早くて軽い作品が多いっぽい。

あと壁打ちで相談に乗ってもらった方から出て膝を打ったのが

・『パーマン』パー子とパーマン1号

『ドラえもん』24巻より(藤子・F・不二雄/小学館)

・『ポケットの中の戦争』クリスとバーニィ

・『セーラームーン』セーラームーンとタキシード仮面

『ガンダムUC』のミネバとバナージもそうですね。

並べてみると

・正体を隠しているのが片方か、双方か

・意図的に正体を隠しているのか、明かす必要がない(と思ってる)だけか

・明かされていない正体を、相手は知らないか、実は知って(気づいて)いるか

など更に分類できそう。

水戸黄門や変身ヒーローもののラブストーリー回とか、いくらでも出てきそうですね。

「マスカレード」は「正体バレ」というエモイベントがセットで付いてくるので、豊富なカタルシスが含まれていて大変健康に良いんですが、『ポケ戦』のように「正体バレ」が(本人同士の間で)無いことがエモい、というバリエーションすらあって大変美味しいので、もっと隆盛してほしいなあ、と思います。

ネットとの親和性がとても高いシチュなので、近年もっとたくさんあっても良いような気もするんですけどね。

gigazine.net

本作で正体を隠しているヒロイン、山田=田山は「すぐバレるだろう」「ちょっとからかおう」と必然性なく軽い動機で正体を隠すことを始めたものの、佐々木が延々気づかないので言い出すタイミングを失って、

「佐々木が未満恋愛で2人の女性に好意を持っているような状態」

「山田=田山のペルソナ間でヤキモチを焼く状態」

など、必然性のない軽い土台の上に、一人二役が織りなす三角関係めいた人間関係の機微やちょっとしたドラマが始まってしまっています。

「山田=田山」の役割分担って、いわゆるSNSの「裏垢」そのものですよねコレ。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』1巻より(地主/スクウェア・エニックス)

本人相手にピュアなファン心理の想いのたけを訴えるおっさん。

テーマ・モチーフとして小品であろうことが予想される作品ですが、読んでて2人とも可愛らしくて楽しいので、なるべく長く読みたいな、と。

日常の会話芸でニヤニヤできてしまうので、このまま永遠に「正体バレ」イベントこなくてもそれはそれでいいな的な。Twitter発らしい良い意味での軽さでフワフワ長く飛んでくれるといいなと思います。

合わせてマスカレードなラブコメ、自分は大好物なのでジャンル化して作品が増えると嬉しいなと思います。既にジャンル化されてた(した)よ、という話があったら是非教えてください。読み漁りたい。

「正体隠した恋愛」ものなんて、隆盛を願うまでもなくキリがないほどイッパイあるような気もするんですけど、1人で考えるとあんま浮かんでこないんですよね。

 

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