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最近のラブコメの主人公たちは昔に比べて頭が良くて、
人間関係が拗れる前に反省して修復してしまうので、いわゆる「修羅場」をあまり目にしなくなりました。
昔のラブコメ漫画の修羅場の例。
※ねてません
自分は年の近い妹がいた影響で子ども時代に「りぼん」を読んで育ちました。
男子が「りぼん」を読んでも、別に女心がわかるようになったわけでも、女にモテるようになったわけでもありません。
ただ単に面白かっただけですが、唯一効能があるとすれば、昔の少女漫画はトラブルと修羅場の宝庫、要するにその原因になる「NGワード」、「NG行動」の宝庫でした。
「女子に対して」に限らず、人間関係全般において。
昭和の恋愛ワールドは、久住くんですら司くんにぶん殴られる修羅の国です。
『僕ヤバ』の最新話で本作初と言っていい主要キャラ同士の修羅場(?)が描かれましたが、ヒロインの山田と激しく言い争ったのが、
よりによって、これまで散々空気を読んで市川と山田をフォローしてきた萌子だったのはちょっと意外でした。
たかが中学生の友達同士のよくある喧嘩です。
わざわざ山田の至らなさをあげつらうつもりはないんですけど、何がそんなにあの萌子をキレさせたんかな、と。
【大前提・予防線】
・たかが中学生の友達同士のよくある喧嘩です。わざわざ山田の至らなさをあげつらうつもりはないんですけど、何がそんなにあの萌子をキレさせたんかな、と(大事なことなので2回
・作者も山田も萌子も女子で、自分はおっさんなので、女子の気持ちは自分には表面しか多分わからないんですけど、まあ、わかろうとすることは大事だろうと
・この漫画はフィクションであって現実ではないので、神様である作者の匙加減でオチはどうにでもなります
「ご都合主義」「リアルじゃない」「リアリティがない」
と批判される漫画は山ほどあり、この漫画もそうなってはいけない理由はないです
最もリアルな展開の一つは、二人が別の高校に進んですれ違って別れる展開ですが、
自分はそんな漫画を特に選んで読みたいとは思いません
(いや、読みたいかも
・自分が思うに、この作品に限らず漫画に必要なのは「現実の再生産」ではなく、
ご都合主義であっても「作者が本当に描きたいこと」に寄り添うことだろうと
・要するに、「漫画の中の女子中学生が何を怒っているか」を
おっさんが考えた文章なんて、しょせん頭で考えた屁理屈でしかありません
予防線終わり。
以下、上記をわかった上で、それでも真剣に「萌子が怒った理由」を考えます。
【背景】
理屈上、もともと山田は萌子のコンプレックスを刺激してもおかしくない存在です。
・男子からのモテ(ナンパ)がわずらわしい山田、男子からモテ(ナンパされ)たい萌子
・ナンパイに口説かれた山田、ナンパイに相手にされなかった萌子
・モデル容姿でモデルで女優の山田、一般人の萌子
・若くしてタワマン住まいのパワーカップルの一人娘の山田、
兄が受験した私立中受験を、両親に気を遣って自主的に遠慮する程度には「裕福な家庭じゃない」「期待されてない」と思っている萌子
・天然で気が利かないが裏表のない性格で愛されキャラの山田、
空気読み・気配りと「男子フレンドリー」な雰囲気が処世術の萌子
・クラスメイトのちょっと可愛い男の子と相思相愛・純愛で彼氏彼女になった山田、
それを見守りながらも努力(?)の甲斐なく自分は彼ピのいない萌子
山田は萌子が望んでも手に入らないスペックを持った「天然愛されハイスペ女子」です。
漫画のキャラ造形としては、自分は山田より萌子の方が好みなんですが、
それは「漫画の絵」の話なので置いておいて。
萌子が山田より優れている点は
・気が利いて気配りができるところ
・地頭(じあたま)(と学業の成績)が良く頭の回転が早いところ
です。
サッカー選手のプレイスタイルで例えると、ガンバ大阪にいた元日本代表の遠藤です。(要らない喩え
実は山田が望んでも今のところ手に入れられてないスペックでもあり、社会人・家庭人として汎用的に望まれる能力であり、言い換えると「思いやり」と「想像力」なんですけど、
山田は両親や周囲から、愛娘ゆえ素質ゆえ「姫ポジション」ゆえに愛され過ぎ可愛がられ過ぎて、「思いやり」はともかく「想像力」を鍛える機会を、おそらくあまり持てていない。
仔犬同士のじゃれあいを経験せず「噛まれると痛い」ことを覚えずに大きくなった結果、じゃれあいでマジ噛みして相手を傷つけてしまう、「甘噛み」を知らない犬みたいなもんです。
打算的な意味では、萌子は山田とつるむことでスクールカーストにコンプレックスを持たずに済む位置に居られて、実際に山田をエサに「ナンパ待ち」に繰り出したりもしています。
逆に山田は、萌子、にゃあ、ばやしこなどのしっかり者(?)が、本人が望まないナンパやミーハーやアンチに対するバリアを買って出てくれていることで、平穏な学校生活を送れています。ちょっとした「姫ポジ」です。
じゃあそうした共生関係的な打算抜きで、気が利かなくて鈍感なのにハイスペでコンプレックスを刺激してきてイラつく対象になってもおかしくない山田と、萌子がつるんでいる理由はなんでかというと、山田の「裏表のない性格の愛されキャラ」を、
友人として萌子も愛しているからだろう、と自分は思います。
嘘も隠し事もできない「いい奴」な山田が、友人として単純に好きなんです。たぶん。
【山田のやらかし】
今回の山田のやらかしポイントは本当にたくさんあって
①女子の友人関係の輪に「オトコ」を引っ張り込んだこと
作者が擬似ハーレム的なラブコメ漫画に仕立てるために、
「お泊まり女子会に一人だけ彼氏を連れてくる女」
に、結果的になっています。ナイわ。
しかも萌子にだけ交際を明かしていることで、
「にゃあ・ばやしこに対する隠し事の共犯」
の後ろめたさに巻き込んでしまっています。
せめてにゃあとばやしこに交際を打ち明けないとフェアじゃないし、その上で市川と女子たちの接触に寛容であるべきで、嫉妬を隠せないならそもそも市川を女子会の輪に入れるべきではありません。
呼んどいてキレんな。
ちなみに自分は大学生の頃に男同士の友だち付き合いの輪に彼女をたびたび持ち込んで、ずいぶん周囲に気を使わせて不興を買っていたので、他人のことを偉そうに言う資格はありません。
ましてや、好きピが彼ピになって脳みそピヨピヨ状態の女子中学生に「自重しろ」とは酷でしょう。
ただ、それを受け止める側の萌子も一介の女子中学生に過ぎない、というだけの話です。
なのでこの手の話は歴史上・日本中にゴロゴロ転がっている、よくある話です。
②買い出しに行かず別荘に残ったこと
萌子の指摘のとおり、後のセリフとの絡みで軽く矛盾を起こしていますが、あえてそれは置いておいて。
それでも、「市川と萌子を別荘に二人残して出かけられない」という心理がゼロだった、
と言ったらそれは嘘でしょう。
微笑ましく可愛らしい心配です。
でも当事者からしたら、
「友だちの彼氏に手を出さない」
「将来の目標のために真面目に勉強する」
の2点に対して、
二重の意味で信じてもらえていない、という気持ちにはなるかもしれません。
③勉強の邪魔
そのために来た合宿で真面目に勉強している相手に、雑談をしかけるべきではありません。
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萌子と市川の決意や努力を軽視していると受け取られかねません。
もちろん、通常時、人間関係が円滑な時には、そんな意地悪な見方はされませんが。
山田にもそれが必要だったように、これは市川と萌子が自分を好きになるために必要な試練なんです。
④「本当にすごいよ萌子は 女子として尊敬する」
このコマで萌子がキレます。
山田は純粋に憧れや敬意の表明のつもりで言っていますが、萌子には、
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なぜならそれは、感謝でもなく、「どうしたら萌子みたいになれるのか」を訊くでもなく、萌子には口先だけの尊敬に感じられるだろうからです。
「口先だけの尊敬」
と萌子が感じただろう、と自分が思う理由は2つあります。
市川に同期して難関校の受験を決意した萌子は、おそらく尊敬の対象を手本として良いところ(具体的な行動)を自分に取り入れて成長しようとするタイプの、ある種の現実主義の人間であるのに対して、
おそらく山田の尊敬の仕方はそういう
「相手の良いところ(具体的な行動)をすぐ自分にも取り入れよう」
というタイプではなく、もっと感覚的で精神的な、「生き様」のようなふわふわしたものに向けられているからです。
「AQMさんの漫画感想は参考になる!読みたくなった!」
と言いつつ、漫画は結局読まない、みたいな、よくある話です。(要らない喩え
良い悪い、正しい正しくない、ではなく、ただの「尊敬」についての解釈のタイプの違いが、すれ違いを生んでいるだけのように見えます。
⑤萌子に対して裏表の「裏」で接したこと
萌子が山田の言葉を「口先だけの尊敬」と感じたもう一つ理由は、話しかけた山田の目的が最初から「嘘・隠し事」を孕んでいたからです。
「コンドーム落ちてて持ち主わかんないんだけど、持ってきたのって萌?」
って素直に訊きゃあいいんです。
それを余計なイチャコラ探偵ごっこのために、普段しないおだてから入るもんだから、空気読みの萌子にはすぐ作為がバレます。しかし作為の中身がしょーもない「探偵ごっこ」とまでは萌子にはわからない。
萌子から見たら素直で裏表がない性格が山田のいいところなのに、作為や隠し事が混じったら、ただのコンプレックスが刺激されてイラつくハイスペ鈍感女です。
萌子の目に山田はどう見えたでしょうか。
「彼氏の前で普段口にしない女友達への尊敬を口にして謙虚さをアピールする女」
でしょうか。
もちろん、山田にそんな悪意は、少なくとも自覚はないです。
でもそもそも、一人に対して二人で事情を伏せて示し合わせてカマかけるやり方、普通に失礼で不愉快ですよね。「犯人探し」って…
萌子は萌子で、人間、一度怒り出すとそのこと自体が被害妄想や更なる怒りを掻き立てて、あとはもう売り言葉に買い言葉。よくある子ども(?)の喧嘩です。
①〜⑤の一つ一つは普段の萌子ならスルー(もしくは我慢)できることだったり、話せばわかるすれ違いでも、怒りに火がつくと
「ホントはアレも頭に来た!コレも頭に来た!」
ってなるやつ。
普段の萌子なら、
市川がそんな器用に気が利いたこと言える奴なわけないだろ。ってわかってるはずなんですけど。
同時に、この作品はこうした修羅場に発展する前に、
きっかけを小火(ぼや)のうちに小まめに消火して修羅場やギスギスを回避してきた漫画なんで、今回も作者がそうしようと思えばできたはずなんですが、今回に限って作者はあえてそうしませんでした。
「なんで今回、萌子がキレたのか真剣に考える」
なんて、結局のりおの手のひらの上なんですよね、またしても、いつものように。
人気サブヒロインの系譜と、朱美さん
メインヒロインへのアンチテーゼとしての役どころとして『めぞん一刻』の朱美さんに似てきました。
山田と対照されるべき黒髪・長髪のメインヒロインの響子さんも、読者の間で「面倒くせー女」として有名で、アンチもいました。
すぐにくっつかれると困るメタ事情もあったので、男性向けラブコメの歴史は
「いい加減くっつけゴルァ!」
と読者を焦らす、大量の「面倒くせーメインヒロイン」で埋まっています。
可愛いなw
ラブコメ漫画というか、フィクションのラブコメ要素において、メインヒロインを喰ってしまったサブヒロインというのは珍しくもなく、
バトル漫画のサブヒロインの恋は命がけ。
(※『ぼく勉』はメインヒロインをはっきりさせない「ハーレムラブコメ」なので、厳密には真冬先生はサブヒロインではないんですが、未成年の主人公に対して遅れて登場した成年の教師で、明らかに「メタに不都合を抱えたヒロイン」でした)
「メインヒロインとしての読者好感度」の分水嶺、「山なんとかさん」と呼ばれかねない突然のピンチに、山田が立たされてしまっているな、とw
そもそも素の天然で愛される山田より、人から好かれるために処世術で「キャラ作り」をする「凡人」の萌子の方が、読者が感情移入するフックが多いんです。
我々平凡な読者のほとんどがそうだから。
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もはや読者の人気と感情移入度では山田と同等!!下手すると喰われるぞ、沢北!!
ラブコメ漫画のメインヒロインは「聖女」としての側面、ミステリアスな側面や、
メタに作品を引き延ばす都合から「面倒くさい女」であることが求められがちで、割りと損なポジションです。
のりおも「山田が悪い」と言っている。
萌子は萌子で、市川の母と姉以外のこの世のすべての女を対象にしたヤキモチモンスター化した山田のそのターゲットに、作者によって狙い撃ちで意図的に置かれている節がありますね。
ちなみに山田は一応、謝れる子ですし、
市川と山田が成長しているように、萌子も変化しているので、
前回みたいにしれっと仲直りしそうな気もします。それでいいのかどうかはともかく。
キーになるのは、にゃあの最短距離で核心を突く言動か、ばやしこの脅威の鈍感力か、おねえの年の功か。
山田を「可愛いだけのヒロイン」から脱皮させたい、作者の意図を感じなくもないですね。「可愛いヒロイン」を生み出すことに多くの漫画家が四苦八苦している中、少し贅沢な話ですが。
そもそも、たかが中学生の友達同士のよくある喧嘩です。
いい大人がわざわざ山田の至らなさをあげつらうつもりはないんですけど、何がそんなにあの萌子をキレさせたんかな、と。(大事なことなので3回書きました)
ちなみに『ウマ娘』のナイスネイチャの初期設定が
「目指せモテカワ! 金持ちイケメンの彼ピ欲しい!」
で萌子とキャラがカブってたんですけど、
いつの間にか無かったことになったのは、一体アレはなんだったんだろう…
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