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あ、今日読んだ漫画

#キラキラ! 1~5巻【完】 読んだ(ネタバレ注意)

年末年始で新刊が発売されないので、過去に発表された名作を読み返します。
今日は「キラキラ!」です。

 

「しかしそうして人生は一つ一つ決定されていく」
「可能性という甘く魅惑的で無責任な言葉は一つ一つ消え去っていく」

週刊少年マガジンというメジャー誌に1989年から1年半に渡って掲載された作品なので、マイナー扱いは失礼かもしれません。しかし古い作品で、必ずしも作者の代表作と目されてはいないため、少し概要を説明する必要があるかもしれません。

作者は「さくらの唄」「お天気お姉さん」で著名、「バカ姉弟」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した安達晢で、彼のデビュー2作目にあたります。

私事ですが数年前に手持ちの漫画を、可能なものはすべて電子書籍に置き換えようとした際に、電子書籍化されていなかったこの作品も誤って手放してしまいました。Amazonkindle化要望を出しつつも、結局は待ちきれずに今年の春の引越しの際に書籍版を買い戻したのですが、割とその直後にkindle化されました。

大雑把に言えば自分の友人たちが有名なバンドやアイドルたちだったら、という思春期にありがちな妄想(自身が有名人ではないところがミソです)をドラマチックに膨らませた作品と紹介できるかもしれません。しかしそれで片付けるには、この作品の持つメッセージは私の心の少々深いところに刺さり過ぎました。

もっと大雑把に言えば、青春文学の金字塔である漫画です。

荒々しく簡略化されて描かれた線はまるで初期の岡崎京子の作品のように、時にアーティスティックであり、時にポエティックであり、時にエロティックであり、時にバイオレンスです。

公式な区分けではありませんが、構成はおおよそ旧の単行本で5冊をかけた第一部、3冊をかけた第二部に大別することができます。

立身志向で仕事人間の父親を持ち、冷え切った家庭で育った慎平は、進学高に通いつつ毎日に退屈しています。ある日、友人の誘いでTVドラマのエキストラのアルバイトに参加した慎平は、現場で天使のような美少女と出会います。芸能事務所のスカウトに唆されたこともあり、また慎平は女好きなので、芸能科を擁する青晶学園のその芸能科に、美少女を追って短絡的に転校します。芸能科のアイドルやタレントの卵たちに囲まれて、慎平の少々ウェイ系な楽しい高校生活が再出発しました。

慎平が見初めた、髪が長く、煙草を吸い、酒を飲み、少し不良っぽい「はすっぱ」な少女・恵美里は、少しずつ慎平と心を通わせながら、やがて日本を制覇するアイドルとしてスターダムを駆け上がっていきます。

芸能科に対する圧力を少しずつ強めていく学園側、恵美里の「昔の男」の影。
やがて慎平の楽しいはずの高校生活は、恵美里のスキャンダルと一人の少年の死、そして青晶学園自体のスキャンダルによって悲劇的なカタストロフを迎えます。

ここまでが第一部です。

第二部はカタストロフ後が描かれます。まるで長いエピローグのように、慎平の目も恵美里の目も、ここではないどこかを退屈そうに見つめています。
芸能科は消滅し、友人たちは恵美里を含めて全員学園を去り、慎平は数少ない「芸能科の生き残り」として無気力な高校生活を送っています。
悲劇的な過去を背負った彼に憧れる「一般人」の同級生の女の子や、その従姉妹の優等生、彼女に憧れる陰気な少年などに話の焦点は移りますが、最終的に慎平が主人公としての地位を取り戻します。

優等生と陰気な少年の話はまた少し異質です。それはいじめ問題に踏み込んだようにも見えながら、精神的なSMの話のようにも見えます。本来なら別の作品にするつもりだったプロットを、好きすぎてこの作品にぶち込んだ、と作者は語ります。後の作品にも繋がる、こうしたある種の変態的な性愛や暴力性の描写は、作者が背負った業のようにも感じます。

私は、この作品には恋、友情、暴力、セックス、反抗、嫉妬、栄達、虚栄、スキャンダル、別離、再会、自己実現、承認欲求、自己陶酔、青春期に特有のありとあらゆる煩悶と妄想が身も蓋もなく混沌として詰まっているように感じます。

第二部の慎平は悲劇的な過去を持つ、無気力で枯れた人間として描写され、まるでハードボイルドの主人公のようなダンディズムとナルシシズムさえ漂わせます。そして帰ってくる恵美里。彼女が語る慎平への深い愛情。

高校三年末期のあの特有の、気温が低く乾き、晴れ晴れとした寂しさの季節を過ぎた最終話、エリートとして将来を嘱望され仲間に囲まれていたはずの慎平は、突然、夜の暗闇の中、神との対話を迫られます。あるいはそれは作者との対話だったのかもしれません。
青春を、人生を、達観しあるいは諦観し、それを慎平に対しても迫る神に対し、彼は声を枯らして反抗します。

そんな彼に別の声、彼の天使の声によって物語は終わります。

「大丈夫よ」
「ずっと一緒よ」
「あたしと神様とどっちを信じる気ー?」

慎平と恵美里の2人が大好きな読者である私にとって、それはまるで福音のように響きます。

思春期だった私はこの作品を、作者が魂を彫刻刀で荒々しく削ってインクに溶かして描いたような漫画だと感じました。まるでこの漫画が自分の一部になったような感覚が未だに消えず、読み返すたびに私の感情を前後に、上下に、左右に、激しく揺さぶります。

今回、紙の書籍版に重ねてkindle版を買い求めましたが、最終巻末の作者の短く印象的なあとがきが収録されておらず、また恵美里の最後のセリフがほんの少しだけ変えられていました。そのせいで私は単行本をブックオフに売り払うわけにはいかなくなり、それは一生私の本棚に納まることになりました。

連載のリアルタイムの少し後、多感な思春期の頃にこの漫画に出会えたことに、私は今でも深く感謝しています。