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#バトゥーキ 11巻 評論(ネタバレ注意)

女子中学生・三條一里はブラジル・マフィアの現ボスの落とし胤だったが、本人はそのことを知らず、組織の末端構成員の夫婦に日本で育てられた。

組織構成員B・Jは組織の跡目争いに一里を参加させるべく、育ての両親を誘拐。

同じ頃、カポエイラ(カポエラ)と出会い夢中になった一里は、両親を人質にとったB・Jの脅迫と指示により、高校生となって以降もカポエイラの腕を磨き、B・Jが充てがう強者たちを相手に実戦を重ねていく。

カポエイラの夜の練習場のアスレチックを6巻以来の敵、半グレ組織「悪軍連合」に襲撃され、一里組vs悪軍連合の全面対決。さらに悪軍連合内の下克上も重なり、三つ巴のバトル合戦。

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「バトゥーキ」11巻より(迫稔雄/集英社)

一里と悪軍鉄馬のバトルの決着がつき、悪軍連合編が今巻で完結。

悪軍連合編がこれだけ長大化した理由として、悪軍連合内の王部の叛逆が挙げられますが、実はこれは悪軍の物語であって、本作の主人公である一里にはまったく関係のないものでした。一里にとって王部は「倒さなければいけなかったかもしらない敵幹部」に過ぎず、個体として視界に入っていません。

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「バトゥーキ」11巻より(迫稔雄/集英社)

悪軍連合編の序盤は「一里(と仲間たち)は一体、悪軍連合の強者を何人倒さなければならないのか」と思ったものですが、王部の起こした内ゲバによってヒゲ番長を筆頭にするそれらの強者との対戦はキャンセルされて、長大化したにも関わらずむしろ当初の予想よりスムーズにラスボス・悪軍鉄馬との対戦につながりました。

内ゲバが描かれた物語上の意味がなんだったかというと、純粋に一個の暴力の塊であったはずの悪軍鉄馬の、一大勢力の構築とそれに伴う地位・利権の頂点と成り果ててしまったことへの鬱屈と、そんな現在の自分を破壊したい破滅願望に他ならなかっただろうと思います。

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「バトゥーキ」11巻より(迫稔雄/集英社)

肉体的にはベストコンディションであっても、マインド的にはどこか「負けたがり」であって、それをするに足る一里に「今の自分を壊して欲しい」願望を込みでの対戦であったように思います。

悪軍の物語としては厚みを増す展開ですが、一里の物語にとってはあんまり意味がない展開で、途中で一里の負けフラグが立ったものの

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「バトゥーキ」11巻より(迫稔雄/集英社)

それはただのフェイントで、結局作品としては順当な一里の勝利でした。

格闘漫画のオーソドックス展開として、一里がすべての幹部と対戦していくことも、悪軍鉄馬に一度敗北することも、「そうすることもできた」と可能性が示唆されただけで、実際はキャンセルされました。

悪軍鉄馬の鬱屈やヒゲ番長の葛藤、王部の野心はことごとく一里にとって今回なんの意味もなく、ただ作者がキャラクターにまつわるドラマとして描きたかっただけなのか、先々の展開の伏線となるのか、どっちなんでしょうね。

巻の後半は悪軍鉄馬との決着が吹き飛ぶような、3巻以来の流れが変わる作品の物語の大転換を迎えます。

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「バトゥーキ」11巻より(迫稔雄/集英社)

最後のページ、なぜ「彼」が「それ」を手にしたのか、この先一里がどうなっていくのかとても気になりますし、もしかしたら作者は思いついたこの展開を早く描きたいがために、悪軍鉄馬を肩透かしのように短縮して終わらせたんじゃないかと思ったりもします。

あいつ、マジで死んだのかね?マジで?

 

 

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