いい表紙。
近未来、地球には「亞害体」と呼ばれるクリーチャーが襲来。国際組織「人類連合」が結成され、量産人型兵器を運用して亞害体を無人の辺境に封じ込めていた。無職の青年・平 仁一郎のもとに一通の通知が届く。それは人類連合のパイロットの採用審査通知だった。
という、エヴァとMATRIXとAVATARとパトレイバーとフロントミッションを足して割ったような人型兵器に、無職を集めて遠隔操縦させるSFもの。ロボはレイバーサイズ。
遠隔操縦だけど神経接続されるので、痛みがフィードバックされ破壊されると死。ヤバくなったら神経接続のプラグを抜けば緊急脱出、ただし生涯で5回これやると脳のダメージで死ぬ。
戦場は南シナ海のジャングルの島だけど、遠隔操縦なのでパイロット達は自宅から平和な日本の職場に通勤という、日常と非日常のコントラスト。
人類連合は亞害体をサファン諸島に装置で封じ込めて被害担当地域と定め、これに抵抗するサファンをあたかも亞害体であるように偽装し攻撃してきた。真実を知った主人公たち31小隊はこれを世間に公表。そんな最中、世界中に「本当の」亞害体が出現、跋扈。国連ではサファン諸島に対する再攻撃と封じ込め装置の再起動が決議される。
人類世界とサファンの両方を救う道を模索する31小隊は、サファンとの停戦合意と共同戦線を成立させ、最終決戦に挑む…
ということで、完結巻。
人類社会のサファン諸島に対する非道な仕打ちは、歴史上類例がたくさんあって、わかりやすく例えると「シン・ゴジラ」の国連の東京核攻撃の決議なんかもそうですね。
ルックスも似てるんですけど、ゲーム「フロント・ミッション」の「祖国達の島」、兵器開発の実験場として大国たちの犠牲になったハフマン島を少し思い出します。
あれリメイクしねえかな。悲しみと怒りが歴史を動かすあのシナリオ、少しビターなあのエンディングも大好きだったんですよね。
能倉の怒りと悲しみから生まれた、八方塞がりの極限状態を挽回する起死回生の「たったひとつの冴えたやり方」。
オチの付け方次第で、もっとビターな結末にして「切なくて泣ける名作」になることも可能だったでしょうけど、作者はあえてそうしませんでした。
この作者の優しさ、あるいは甘さなのかもしれないですけど、ビターなエンディングより、この甘すぎるぐらいのハッピーエンド、大団円で本当によかったなー、と自分は思います。
「誠実に必死に頑張っていれば、きっと理解し合えて仲間ができて、きっと人生も世界も良くなっていく」という単純明快で性善説と、同時に「世界を疑い対立することも辞さず、自分で考えることをやめない」こと、言ったらこの作品は1巻からずっとそれを描いてきた作品で、実にこの作品らしいエンディングを迎えて節を通したな、と感じます。
「サファンへの過ち」、少数の犠牲で世界が守られることも、能倉に繰り返させなかったね。
8巻でコンパクトに完結ということで、何十巻もの付き合いの作品が完結した時に感じるあの喪失感こそ感じませんが、人気作を引き伸ばすでもなく無駄なく構成されていて、後々に何度も読み返しやすく人にも薦めやすい作品になりました。全8巻の割りにエンディングを迎えると妙に「大作感」みたいなものも感じますねw
映画だったら最初からパッケージになっていて、観始めてた時点で結末までが既に完成して決まっているんですが、漫画、特に読み切りではない、商業連載漫画というのは単行本のセールス・アンケート・ネットの反響などで、引き伸ばされたり、打ち切られたり、展開が変わったりテコ入れが入ったりと、どうしても「客の反応」に反応して本来作品が至るはずだった「あるべき姿」から外れることが多く、言ったら映画と比べて完成度の点で劣ることが多いんですが、たまにどういう理屈か「あるべき姿」を保ったまま完結まで駆け抜ける作品が現れます。
展開に多くの変転があった作品だった割りに、伏線やキャラの配置など、後付け・引き伸ばし・打ち切りなどの痕跡がほとんど感じられないというか、まるで「一話から最終話まで描き終わってから順番に載せていった」かのように、完成度高く、作品としての節を通した漫画だったなーと思います。
やー、面白かった。
「ガンダム」系以外のロボットものも珍しいですけど、今時珍しいぐらいの大団円で読後感いいわー。
作者の次回作も楽しみだわ。
aqm.hatenablog.jp