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#アオのハコ 1〜3巻 評論(ネタバレ注意)

ネットの口コミで評判良いので、3巻発売を機に遅ればせながらまとめ読み。

週刊少年ジャンプ、本誌連載の青春漫画。

最初、少女漫画出身の作家さんかなと思ったんですが、Wikipediaを見るとジャンプスクール(?)出身、別名義でマガジン系で何作か描いて、現名義でジャンプに本作を連載とのことで、女性作家ですが少女漫画あんま関係なかった。

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「アオのハコ」巻より(三浦糀/集英社)

中高一貫校の中3の大喜(♂)は、中学のバドミントン部を引退後も高校入学後を見据えて高校のバド部の練習に参加。

同じ体育館で練習する女子バスケ部には有望選手で学校のアイドル、&ひとつ年上で大喜の憧れである千夏先輩(♀)がいた。

早朝自主練で千夏先輩と言葉を交わすようになった大喜が、ある朝、自宅で目覚めてリビングに降りると、そこには千夏先輩の姿が!

千夏先輩は親の海外転勤に際してもバスケの夢を諦められず、バスケ部OG同士の母親同士のツテで大喜の家に下宿することになった。

千夏先輩のバスケにかける覚悟を知った大喜は、千夏先輩のインターハイへの夢の邪魔にならないよう告白を控える代わりに、彼女にふさわしい男になるべく、自分もバドミントンでインターハイ出場を目指すことに。

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「アオのハコ」巻より(三浦糀/集英社)

300字ぐらい使ってネタバレしましたけど、ここまでで第2話ぐらいです。

という、同居ラブコメ…ラブコメじゃねえな、恋愛もの…恋愛だけでもねえな、恋愛と競技が強く結びついた青春もの。

競技の描写に熱量は感じますが、ジャンル「スポーツもの」っていうほどにはスポーツ中心の展開ではない感じです。

青春もの。まあ、タイトルも「アオのハコ」ですし。

最近タイトルに「アオ」や「ブルー」が入った作品、心なしか多いですね。

「ハコ」は彼らが多くの時間を練習で過ごす体育館のことかしらん?

 

あだち充の「ラフ」という名作がありますが、「スポーツと恋愛のバランス」的にはあれに近い感じです。

近い環境で練習する、違う競技、お互いインターハイを目指す、とか共通点が多い。

多くのあだち充作品に共通していますが、ラブコメながら主役2人がなんらかのスポーツ競技などに打ち込んでいて、

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「ラフ」9巻より(あだち充/小学館)

少年誌ラブコメを描くにあたってのあだち充の哲学のようなものでしょう。

ちなみに近年、ようやく電子化されました。

「アオのハコ」を読んで「こういうのが少女漫画誌じゃなくてジャンプに載るんだなあ」って一瞬思いましたけど、「タッチ」だって「ラフ」だって何十年も昔にサンデーに載ってたわけで、今さらな感想かな、という気もします。

その他、作者によって作品の基本構造として仕組まれた未満恋愛の微妙な三角関係など、あだち充作品と共通点の多い作品だな、と思います。

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「アオのハコ」巻より(三浦糀/集英社)

 

思い出しちゃった話ついでももう一つ。

タイトルに「アオ」がついて主人公がラケット競技やってるから、ってわけでもないですけど、ずっと昔に読んだ宮本輝の青春小説「青が散る」を思い出します。

あれもテニスをめぐる青春と主人公たちの恋愛が強く結びついた青春小説で、「アオのハコ」で主人公の大喜がバドミントンで覚醒というか強くなったシーンを読んで、

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「アオのハコ」巻より(三浦糀/集英社)

「『青が散る』にも確かこんなシーンあったなあ」と思ったりしました。

ただのよくある偶然でしょうけど有名な小説でもあるので、もしかしたら「アオのハコ」というタイトルは少し「青が散る」に掛かってるのかもしれないな、と思ったりもします。

文芸作品だった「青が散る」はただし、確かとても苦味が強いビターエンドでした。

 

近年の週刊少年ジャンプのラブコメ・恋愛枠は、毛色が少し違う2〜3作品で役割分担してるような感じがしますね。

この作品は「ピュア・爽やか・青春」寄りの正統派枠、という感じ。ヒロインたちは可憐ですが、いわゆるお色気描写はだいぶ控えめ、ギャグコメ要素も薄めです。

同居ものですが、主人公の両親が海外出張に行きがちなラブコメ作品と違ってヒロインの両親が海外に行き、同居の保護者である主人公の両親の存在も比較的きっちり描かれます。

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「アオのハコ」巻より(三浦糀/集英社)

恋愛もので「同居」って便利な萌えシチュな分、無理めなファンタジーな設定ですけど、他作と比べるとまだ割りと地に足がついた背景設定。

 

半・ジャンプ漫画、半・少女漫画という感じでどこか90年代チックなタッチの魅力的なビジュアルですが、ヒロインの魅力というよりは、憧れの相手との触れ合いや同居の秘密を共有するときめきで引っ張ってる感じです。

最近は「ハイスペだけどポンコツ持ち」のヒロインが隆盛してる中、

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「アオのハコ」2巻より(三浦糀/集英社)

「高嶺の花」ながら今のところあまり漫画的・記号的な欠点・弱点を持たないヒロイン。

競技優先で恋愛面で禁欲的な主役二人なので、恋愛もののヒロインとしての本性はまだよくわかりません。

強いて言えば、生真面目で不器用で融通が効かない、というところでしょうか。

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「アオのハコ」2巻より(三浦糀/集英社)

雛ちゃん何言い出すの。

ポンコツ属性よりも、本人が恋愛感情を封印してモノローグすら少なく、読者から匂わせ程度しか気持ちが見えないことで、「本当の気持ちを知りたい」と思わせるタイプのヒロイン。

南ちゃんタイプやね。あと「Bバージン」のユイとか。

少年目線から心中がミステリアスな存在、という意味では、やはり少女漫画じゃなくて少年・青年漫画のヒロインですね。

作品のクライマックスで一度だけ花が咲くタイプ。

 

主人公の動機が「インターハイのスター候補のヒロインにふさわしい男になるべく自分もインターハイを目指す」という、恋愛に対する煩悩を競技で昇華してるお話なので、

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「アオのハコ」巻より(三浦糀/集英社)

願いが成就するまでは恋愛面の動きが少ないというか、よく言えば繊細な、悪く言えばもどかしい描写がしばらく続きそうな、正統派の青春もの。

時間が流れていく時制の作品で、長くても大喜の高校2年(千夏先輩の高校3年)の夏が佳境になる作品かな、と。

口コミどおり面白いし、面白く在り続けそう、という匂いがしますね。

 

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