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#海が走るエンドロール 1〜2巻 評論(ネタバレ注意)

65歳にして連れ添った夫を亡くした、うみ子。

夫とデートで行った映画館の記憶に触発されて20年ぐらいぶりに映画館を訪れる。上映中に昔からの癖で客席を振り返って見回すと、先ほどロビーで肩が当たって挨拶した美しい若者と目が合ってしまう。

美大の映像科で学ぶ学生だというその若者に上映後「さっき目が合いましたよね」と声をかけられたうみ子は、衝動的に「調子の悪いビデオデッキを直して欲しい」と自宅に誘ってしまう。

うみ子が綺麗な女性だと思っていたその若者は名を「海(かい)」という実は男性で、話すうちにうみ子に「あなたは映画を作る側では?」と指摘する。

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「海が走るエンドロール」1巻より(たらちねジョン/秋田書店)

海の言葉で「映画を撮りたい」気持ちに火がついたうみ子は、海が学ぶ美大の映像科を受験して入学。

かくして齢65のうみ子の、映画人生が始まった…


という、初老のご婦人を主人公に置いた青春もの。

昨年の年末来、各所で話題だったところ、2巻が発売されたので、まとめて。

 

漫画に限らない話ですが、自分がアーリーアダプターになり損ねたコンテンツを「酸っぱい葡萄」的な斜に構えた視点で見てしまったり評価してしまったりする心理、というのはある種のオタクやマニア、愛好家を自負する人間にとって「あるある」なんじゃないかと思う、と言うか自分はそういう心理が働いてしまうんですが、未読の漫画作品に対しては虚心で在るべきだし在りたいな、と思って読むことにしました。

 

レーベルは「ボニータ・コミックス」と耳慣れないレーベルですが、「クジラの子らは砂上に歌う」などが有名。

 

Wikipediaによると秋田書店の少女漫画誌とのことです。

ja.wikipedia.org

 

ネットで話題になる際にビジュアルとして1巻の表紙が露出してたので、もっと濃くてバタくさい絵柄を想像してたんですけど、すっきりして読みやすく少し可愛らしい絵。

主人公に初老のご婦人を置いていて必ずしも読者層ターゲットが少女なのかどうかはわからないものの、ヒロインが「王子」と「自分の運命」とに同時に運命的・衝動的に出会う導入、多用されるヒロインのモノローグ、ガワは違っても骨格自体は純然たる少女漫画であるように、自分には見えます。

 

各所の紹介記事などで知っていた「65歳でゼロから映画監督を目指すご婦人」ということで、1巻の表紙の印象もあってもっとファンキーでアナーキーな「芸術は爆発よ!」的なヒロイン像を想像していたんですが、情熱を秘めつつも人当たりや思考は温和で常識的で少し小心なところのある、感情移入のしやすいヒロイン。

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「海が走るエンドロール」1巻より(たらちねジョン/秋田書店)

65歳で美大入学とか、最初はまあ色々周囲から浮いてんですけど、なんだかんだ青春模様に巻き込まれつつ馴染んじゃってておもろいw


で、「王子」にあたる海くんですけども。

作品の主題は「65歳から映画にかける青春」であることは間違い無いんですけど、作品の魅力の半分近くは彼が担っているように思います。

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「海が走るエンドロール」2巻より(たらちねジョン/秋田書店)

ユニセックスな美青年ですが、美女もしくは男装の麗人のような描かれ方で、男性読者である自分から見ても綺麗で可愛らしい「王子」。

三白眼気味の白目と睫毛の描き方のバランスのせいか、読んでてちょいちょい「アクタージュの顔」、もしくは「藤本タツキが描く顔」を想起させる瞬間があります。

いずれも映画に非常に近接したテーマや作風なことが共通してて、ちょっと面白いね。映画好きってこういう顔を描くんかしらw

映画に関すること以外興味がない「無愛想で不調法でクールビューティな専門バカ」という意味で、ちょっとだけ「スラムダンク」の流川っぽくもあり。

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「海が走るエンドロール」2巻より(たらちねジョン/秋田書店)

ユニセックスな造形もあって、読者によってはBL妄想も捗りそうな。

うみ子が海くんの祖母と同い年なんだとかで、2人の関係は互いの映画への情熱や才能への共感、あるいは被写体としての興味が強調されていて、他のエクスキューズも併せて、恋愛関係に発展する期待は注意深くはぐらかされています。

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「海が走るエンドロール」2巻より(たらちねジョン/秋田書店)

でもうみ子は読者と一緒に、海くんに明らかに萌えてるっていうねw

この辺、描きようによっては一気に読者に(大人による、若者に対する性的な願望として)嫌悪されがちな妄想くささ・気持ち悪さを持ち兼ねないところを、絶妙なバランスで回避してるなー、と思います。


1巻の導入が落ち着いた2巻、当面は映画をテーマにした「美大もの」として進行いくみたい。

「映画もの」「情熱、青春」「王子」「美大もの」「異世代間交流もの」。

作品の魅力をキーワードで挙げてったらそういう感じです。

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「海が走るエンドロール」1巻より(たらちねジョン/秋田書店)

高尚そうなテーマ、俗っぽいキャラ萌え、擬似恋愛的にも見える人間関係を織り交ぜつつ、地に足のついた丁寧な展開と描写で、いろんな切り口で楽しめそうな作品。

 

最後に話は変わりますが、自分は「このマン」についてはその存在意義を認めるとともに「正直どうかと思う」気に食わない点も多々あるんですけど、「このマン」の後押しなかったら自分これ読んでねえので、そういう点ではやっぱり存在意義を認めざるを得ないんですよね。

チキショー、「このマン」、お手柄や。

というのと、アキバblogが1巻の発売日の翌日にキッチリこの作品を扱うアンテナって一体どうなってんスかね。当時、目に入ってたはずなのに全く記憶にないわ。漫画好きにとっては1巻発売前から期待されてた作品なんかしら。

どこで知ったんだよこの漫画。実はお前ら俺に内緒でみんなボニータ読んでんのか?

 

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