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#望郷太郎 8巻 評論(ネタバレ注意)

「デカスロン」「へうげもの」の作者の現作。

突如地球を襲った大寒波に際し、財閥系商社・舞鶴グループの創業家7代目、舞鶴通商のイラク支社長・舞鶴太郎は、駐在するバスラで極秘に開発させていた冷凍睡眠シェルターに妻と息子を伴って避難。1〜2ヶ月の冷凍睡眠で大災害をやり過ごす心算だった。

しかし太郎か目を覚ますと、隣で眠っていた妻も息子もミイラ化し、装置が示す数値はあれから500年が経過していることを指し示し、シェルターの外には廃墟と化したバスラの街並みが広がっていた。

『望郷太郎』8巻より(山田芳裕/講談社)

人が絶えたように見える世界を前に太郎は、自らの死に場所を娘を残してきた故郷・日本に定め、長い旅路を歩き始める。

旅路で出会う、わずかに生き残った人類たちは、過去の文明の遺産を再利用しながら、狩猟と採集で食いつなぐ原始に還った生活を営んでいた。

で始まるポストアポカリプスなサバイバルなロードムービーもの。

『望郷太郎』8巻より(山田芳裕/講談社)

としてスタートした作品ですけど、もう既にジャンルが少し変わったというか本質が表れていて、実態は原始環境における経済もの、「金と人間」をテーマにした作品に。

周辺の村々を経済と軍事で支配する大国、マリョウ王国へ。

作品の大目的は日本に帰還して、残してきた娘の消息を探すことだったと思いますし、地理的には日本にだいぶ近づいてきているんですが、モンゴル自治区のハイラルやフルンボイル(作中ではマリョウ王国)で、足止めというかなんというか。

『望郷太郎』8巻より(山田芳裕/講談社)

地図助かるわ〜。

マリョウ王国では、国王を頂点にした階級社会でありながら、国王から独立した中央銀行、そして国王から独立した議会と選挙、間接民主主義が既に始まっていた…

ということで、旧知ながら国母となったプリを頼って、ヤープト村をマリョウ王国の対等な外交相手に認めさせることが目的…だったはずが、クエスト形式に仕事が増えて膨らんで、気がつけばマリョウ王国の議員に立候補しつつ、紙による金銭(マー)・紙幣の発行に着手、経済、政治、軍事、ときて宗教も絡んでくることに。

『望郷太郎』8巻より(山田芳裕/講談社)

前巻は現実で事件が起こった時節柄、ダイレクトに宗教が絡んでくる展開にギョッとしましたが、今巻は引き続き選挙活動、それ以上に紙幣の普及活動と、既得権益を持つ対抗勢力との暗闘。

マーとは、通貨とは、カネとは一体何なのか。

原石や石油が価値を担保するマー、原石とマーが保証する新紙幣。ちょっと金が保証する通貨、通貨が保証する仮想通貨を想起しますが、厳密には電子マネーやクレジットとの関係の方が近いんですかね?

結論からいうと、太郎の言うとおり便利さには抗えないので(太郎の生死はともかく)最終的に紙幣の普及は成功するのは見えてるんですけど、その主導権争いにフェーズが移行した、というところ。

『望郷太郎』8巻より(山田芳裕/講談社)

旧文明の情報の手掛かりと、太郎という「異世界人」「タイムトラベラー」「デウス・エクス・マキナ」によって、自動車がもうすぐ再現されそうな勢いでその発展・発達が早送りのように急速に進む様子が描かれます。

割りと「この後どうなる」という漫画らしい興味で引っ張ってきてる漫画ですけど、作者が作品全体を通じて描きたいことが

「人間という生き物の本質が変わらない以上、人類は発達した資本主義社会と同じ弊害を繰り返す」

なのか、それとも

「太郎の存在によって違う発展を見る」

なのか、どっちなんだか未だに見えてないのも興味を引かれますね。

『望郷太郎』8巻より(山田芳裕/講談社)

作者の視点で、「人類にやり直させたいポイント」があんのかなコレ?

 

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