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あ、今日読んだ漫画

#ワールドトリガー 26巻 評論(ネタバレ注意)

三門市に突然開いた異世界からの門。現れた異形の怪獣「近界民」が付近を蹂躙するも、界境防衛機関「ボーダー」を名乗る組織の少年少女たちがこれを撃退。街は近界民の脅威にさらされつつ、ボーダーの能力と信頼によって平和が保たれる奇妙な環境となった。

C級ボーダー(研修生)であることを隠して中学に通う三雲修、彼と出会う奇妙な倫理観の転校生の少年。転校生は出現した近界民を超人的な能力で撃滅し、異世界の人間「近界民」を名乗る。

で始まるジャンプ得意の能力バトルもの。大量の個性的な登場人物に付与された能力を、チームで組み合わせたタクティカルなバトル展開が売り。

『ワールドトリガー』 26巻より(葦原大介/集英社)

長かったB級ランク戦が終わって、作品の縦軸たる近界への遠征、その選抜試験。

普段のチームからメンバーをシャッフルして行われる試験のまずは一次試験、閉鎖環境試験。それはB級からの遠征メンバー選抜にとどまらない、審査する側も含めてあらゆる角度から資質が試されるものだった…

閉鎖環境試験自体は今のところ「宇宙兄弟」の序盤でやったアレにSPI試験とグループディスカッションとグループワークが付いてる、というものです。あれを同時に十数チーム、60人前後が同時にやってるだけ…だけ?

『ワールドトリガー』 26巻より(葦原大介/集英社)

大量のキャラクター1人1人に細かい人格設定付けされた本作ならでは、という感じはします。

宿題やってゲームして、一見は子どもの夏休みみたいw

「神は細部に宿る」という格言?がありますが、細部や局所を魅力的に描く作家、という印象。

物語の大目標としては、複数のキャラがいろいろ因縁やらあって「近界」に用があり、ここ数年間のエピソードは全てその遠征メンバーに選ばれるための試練であり過程なんですが、描写の解像度が精緻すぎ魅力的すぎて、読んでるこっちも近視眼的に「B級2位以内」「選抜試験合格」を目標に定めて、大目標を忘れがちにはなります。

誰と誰が何の目的で近界に行きたいんだったけな…

『ワールドトリガー』 26巻より(葦原大介/集英社)

描写が精緻すぎた引き換えに物語の縦軸が遅々として進まず、完結前に読者が亡くなったり未完に終わってしまったりした作品もありますが、じゃあ「もっとダイジェストに描いてとっとと話を進めよう」ではこの作品の魅力は8割減で本末転倒なので、作者も読者も健康に気を遣ってこの先の数十年を長生きしましょう、という感じ。

「グループ演習」は業腹なやり方ですが、ストレスを与えて人格や性向の本質を短期間にシャープに表出させるには優れた手段で、それらのキャラの強みを描く上でアクションシーンやバトルシーンよりも適してます。

『ワールドトリガー』 26巻より(葦原大介/集英社)

なんで一見おとなしめ目なキャラ、特にストレス環境下でも匙を投げずに粘り強く常に思考し続けコツコツ努力する、性向が閃きよりも分析・改善体質タイプの主人公、三雲修のテコ入れが主眼かなと思います。

あと性格にエキセントリックな癖があって評価が分かれるヒロイン・香取のテコ入れね。

ということで、引き続き選抜試験編。

『ワールドトリガー』 26巻より(葦原大介/集英社)

富士山を登ることが目的の話で、延々と五合目の夜にカレーを作る話をやってるような展開で、一向に山頂を拝める気配はありませんが、「カレーの作り方」の語り口が面白い上に、みんなでカレーを作るために役割分担したり作業したりする過程で、大量のキャラのそれぞれの能力、性格、強み、欠点、伸び代や、ワールドトリガーにおける戦場の戦術と指揮命令系統の重要性みたいなものが、より解像度高く見えてきます。

サッカーやバスケで「コートの中の監督」「ピッチの中の司令塔」という形容をされる選手がたまにいますが、アレを育てよう、なんだったら全員にその意識を植え付けて、トラブル時に臨機応変に自律的に対応できる「駒」を育てよう、という意図が見えます。

チーム論・リーダー論に加えて労働問題も絡んでくるため大変イメージ悪いですが、サラリーマン社会でいう「経営者視点を持った社員になれ」というアレ。

まるでコンサルが開くリーダー研修のケーススタディのようですし、商売っけがあれば「ワートリ選抜編に学ぶチーム論」とでも題して(自分が嫌いな)ビジネス書が数冊書かれてしまいそうな話ですが、それらを大量のキャラの言動をメンタルを含めて制御しつつエキサイティングにスリリングに、面白い漫画に仕立てる手腕は相変わらず流石の一言。

『ワールドトリガー』 26巻より(葦原大介/集英社)

ちゃんとエネルギーと休息を摂ることが登山のセオリーであるように、ストーリーの進展に対して読者からせっつかれても、作者は「今これを描く必要性」を確信を持って描いてる、そんな感じがしますね。

 

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