#【推しの子】 12巻評論(ネタバレ注意)

地方の病院に務めるアイドルオタな産婦人科医師・ゴローのもとに双子を妊娠したお腹を抱えて訪れた少女は、彼が熱狂するアイドル・アイ(16)だった。驚きショックを受けたゴローだったが、身近に接するアイの人柄に魅了され、彼女の出産を全力でサポートしようと決意する。

だが出産予定日の当日、ゴローはアイのストーカーに殺害される。驚くべきことに、ゴローはアイが出産した男女の双子のうち一人として転生する…

『かぐや様』の赤坂アカの作話を『クズの本懐』等の横槍メンゴが作画、という期待作。

要約すると二周目人生は伝説のアイドルの双子の子どもだった転生チートな芸能界サクセスストーリー、サスペンス・ミステリー付き。

サスペンスでミステリーな縦軸はありつつも、横軸は主人公の2人が芸能界の様々な仕事を渡り歩いて、作者が見知った芸能仕事の裏側の機微を描写していく建て付けに。

アイドル編、リアリティショー編、2.5次元舞台編、バラエティ編、スキャンダル編ときて、前巻から最終章の近さを予感させる「映画編」。

これまで主人公たちが芸能界のいろんな舞台で渡り歩いてきた中で出会った人物たちを総動員するように、映画制作を通じて「アイを殺した犯人」を追い詰める体制を整えていくアクア。

まだ高校生のアクアの仕掛ける、これまで出会った周りの大人たちを動かして目的を遂げようとする黒幕のような動き、自分は『かぐや様』の対・四宮家エピソードで見たかった展開だな、と思いますけど、こっちで使うために敢えて温存したんですかねｗ

前世持ち設定を活用しているアクアに比べて前世設定が今のところ物語にまったく寄与せず、ただアイドル願望と強力な妄執ばかりが描かれてきたルビーにも、ようやく本格的にスポットライトが、という。

あと、「なくて七癖」というか漫画家ごとに複数の作品を貫いて共通するモチーフというのはあるものですけど、赤坂アカのそれは

「幼少期に母親に捨てられた子ども」　白銀、アイ、さりな

「幼少期に母親と死別した子ども」　かぐや、アクア、ルビー

のようです。

「さりな＝ルビー」なので、幼少期に母親に捨てられた後に生まれ変わり先のもう一人の母親と幼少期に死別する、という経緯で、タメの鬱展開なルビー。

この作品でオチてるキャラの救済を一手に引き受けるアクア大変。

ところで、「リアリティーショー編」など、これまで芸能界の体質や構造の問題、ひいてはTVやSNSの向こうの大衆をも、批判を恐れず舌鋒鋭く風刺してきたこの作品ですけど、物語も佳境に入って作品自体のヤマ場に近づいてしまったので、現在進行形の「戦後最大級の芸能界のスキャンダル」についてエピソードに織り込んで描くのは、タイミング的にもう無理っぽいですかね。

赤坂アカと『【推しの子】』が描く「ジャニーズ事務所の闇」エピソード、ちょっと読んでみたかったね。