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#千年狐 十 ~干宝「捜神記」より~ 評論(ネタバレ注意)

古代中国で千年生きた九尾の狐・廣天たち精怪(妖怪)と人との交わりをコミカルにシリアスにロマンチックに。ジャンルレス。

『千年狐 十 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

千年を生き人の姿に変化する狐・廣天とその親友の神木(の苗)は、悠久の歴史の中、河岸を転々と替えながら、人の世に関わり続けていた。

前々巻より「捜神怪談編」、今巻で完結。

晋の時代、市中の警備・防犯を務める役人・石良。四角四面で頭脳明晰で冷静沈着なリアリスト。

『千年狐 十 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

クールな官僚タイプながら暗闇を極度に嫌う彼に下った新たな事例は、「お化けなんとかします課(仮)」の創設と運用だった。

予算不足の一人部署にコンビとして任用されたのは怪しげで美しい民間人だった。というか毎度お馴染みの化け狐・廣天だった。

突如として古代中国を舞台にした「怪奇ミステリーファイル」みたいな展開に。

『千年狐 十 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

妖を倒すためでなく救うために「お化けなんとかします課(仮)」に入った廣天は、同族(?)の化け狐を逃す過程で自身の正体を権力者の石崇に知られてしまう。

親戚の石良の身を案じる石崇は、化け狐・廣天を石良から遠ざけるため、彼女に無実の罪を着せ投獄、裁判を経て死刑にしようと画策。

「お化けなんとかします課(仮)」の日々は終わりを告げようとしていた…

『千年狐 十 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

原典準拠?のディティールに当たるエピソードが多々差し込まれますが、薄目で俯瞰すると、人の世に交わり友を得た廣天が、利害関係者に正体を知られてそこに居られなくなり、友にささやかな置き土産を残して去る、そういうお話。

幼少期のトラウマから毎晩、自身にまつわる悪夢にうなされていた石良は、廣天たちとの交わりを経て、楽しい?萬鬼行の悪夢を見るようになる…

時間の流れのギャップではなく正体バレによる別離ですが、いずれにせよ今回も人間と「ずっと一緒」には居られなかった廣天。

『千年狐 十 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

別離の寂しさを繰り返し経験しても、それでも廣天が人の世に関わり続ける理由。

作品メタに言えば「美しいエピソードを見聞したり巻き込まれたりしながら人と妖の関係を理解するため」ですが、千年を生きる狐にとっては自意識も作品メタも一緒だろうな、と。

漫画の作中キャラが不老不死故に読者のメタ視点に接近してきて擬似的に重なり合って哀しさを共有するような感覚を経験するのは初めてで、ちょっと面白いです。

「お化けなんとかします課(仮)」のわちゃわちゃした活躍をもう見られないことに感じる寂しさ。

見聞することはできても本質的には夢幻のようにしか関われない、という点で、

『千年狐 十 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

実は廣天と我々読者はある意味で共通しているんですね。

 

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