AQM

あ、今日読んだ漫画

#3月のライオン 15巻 評論(ネタバレ注意)

「生きることも…そして死ぬことさえむずかしくて
 …もうこれしか無いと必死で掴んだのが将棋だった

 多分これが報いだ

 居場所が欲しくてついた嘘が
 まっくらな闇になって
 静かに僕を追ってくる」

実の家族を交通事故で亡くし、将棋のプロ棋士の家庭に引き取られ、その才能と情熱から実子たちを押しのける形で「棋士の子」として養父の寵愛を受け、史上5人目の中学生プロ棋士となり、一年遅れの高校進学を機に「家族」の空気を読んで隅田川沿いで一人暮らしを始めた少年・桐山零。

母を亡くし父が出て行き、下町「三月町」で祖父の和菓子屋を手伝いながら暮らす川本家のあかり、ひなた、モモの三姉妹。

零のプロ棋士としての戦い、学校生活、三姉妹をはじめとする周囲の人々との交流を描き、NHKでのアニメ化や実写映画化もされているハートフルな競技&家族もの。

全身全霊を賭けた勝ちと負けしか無い孤独な世界でのたうち回るような棋士としての心情と、人情味溢れる優しい人間関係の狭間で、その両方に対してどこか借り物の意識が拭えないルーツを失った少年の心象風景が描かれる。

今巻は高校の文化祭の後夜祭、零とひなた。その後は獅子王戦、主に零に敗れる2人の棋士にフォーカス。番外編であかりさんの銀座エピソード。また、1冊を通じて作者の父親と最愛の猫が亡くなったエピソードが語られる。

実際のプロ棋士の心象というのは棋士に知己がいないのでわからないんですが、インタビューやフィクションを通じて想像してみるに、我々「一般人」の自尊心や承認欲求の有り様が、仕事だったり、人間関係や家族を形成することだったり、趣味の世界、例えばブログを書いて読まれること、PVやいいね!の数にニヤニヤすることだったりと、ポートフォリオというか分散してリスクも分散して成り立っているのに対して、求道的に見える棋士の自尊心や承認欲求の有り様は「将棋が強いこと」に全振りとは言わないまでも多くの部分がそれに占められてるんだろうなと想像してます。総量の多い少ないや、全身全霊を賭けたものが敗北という形で明快に否定される何にも喩え難い絶望感などの特異性はあれど、共通する部分も多いんじゃないか、とも。

今巻の心象描写で、当たる相手が強くなっていくにつれ、勝負に臨むにあたって用意していたものが消費し枯渇していく速度がどんどん速くなってきて、真っ暗闇が零を追いかけてくるような描写があって、こんなに周囲の人間関係の優しさに恵まれていてもそれは零の孤独と断絶しているものなのか、と思わされ、その断絶をつなぐ先生の言葉が力強かったなと思いました。

零ほどではないにせよ、ご多分に漏れず自分ももう少し若い頃に、真っ暗闇に追いかけられるような自己嫌悪で「違う自分に成りたい」と苦しかった時期がありましたが、あれはたぶん読んだ漫画の台詞だったと思いますが、

「君のその性格は一生治らない
 君は一生、自分のその性格と付き合って苦しんでいくしかないんだ」

「そっか…治らないんだ…一生…」

的なやりとりを読んで、自分以外のものになろうとする気が失せて随分気が軽くなった記憶があるんですが、零も将来、たとえひなちゃんと結婚して子どもに恵まれて家庭を築いても、棋士として真っ暗闇に追いかけられる人生はずっと続いていって、その孤独は断絶しているようでいてどこかで家族を含む他人と細くて強い糸で繋がっているんだろうな、と、まるでこの作品が完結したかのような感想を持ちました。

それはそれとして、あんなにお世話になった言葉なのに、あれは何の漫画だったか喉まで出かかっているのに思い出せなくてモヤモヤしてしまって、実際のところ歳は取りたくないものです。

何の台詞だったか知ってる人がいたらブコメかTwitterあたりで教えてください。

 

3月のライオン 15 (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン 15 (ヤングアニマルコミックス)

  • 作者:羽海野チカ
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2019/12/26
  • メディア: Kindle版

 

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