架空の自治体、岡島県・町山市が舞台、岡島県警 町山警察署 町山交番に配属された新人女性警察官・川合麻依と、彼女を取り巻く町山警察署の先輩・上司の警察官たちが織りなす、警察官お仕事漫画。
元警察官が描き、「パトレイバー」「踊る大捜査線」の香りのするギャグコメディに溢れた日常要素と、生々しくダークネスな事件や人間の側面が同居する奇妙な作品。
今巻は作者自らの
『アンボックス』の題材は殺人事件で、楽しい事は何も出てこないので、目にしたくない方が飛ばしやすいようにタイトルを変えました。フィクションですので、10話後には必ず日常である『ハコヅメ』に戻ります。その時にはまたよろしくお願いします。
泰三子
との意向で、ナンバリングを外された別章・番外編として17巻と同時に発売されました。「裏17巻」とも「実質18巻」とも言えるエピソードで、表紙も17巻と対になっています。
まあ「ハコヅメ」ファンでこの作者の気遣いに「じゃあ読むのやめときますわ〜」って人たぶんいないと思いますが。
作者にとって「『ハコヅメ』読者の目に強制的に触れさせたくない」エピソードでありながら、描かずには発表せずにはいられなかったエピソード。
余談ですけど、こないだのウマ娘のイベントで負けて下がったテンションを回復するためにゆうきまさみの「じゃじゃ馬グルーミンアップ」全26巻を再読して、ゆうきまさみワールドにあらためてどっぷりハマってそのまま「鉄腕バーディー」のリメイクシリーズ全33巻かな?を再読しました。
「鉄腕バーディー」の話は別の機会にゆっくりしたいんですが、「ハコヅメ」のモーニングと読者層がカブるスピリッツでの連載で、宇宙SF変身ヒーローものとはいえ描き手はゆうきまさみなので社会派の、そして奇しくも「ハコヅメ」と同じく女性警察官(正確には宇宙連邦?銀河連邦?の「連邦捜査官」)を主人公にした漫画でした。
すばらしい作品だったんですが、10年で全33巻を出した作品でありながら、「重厚、複雑、長大、そしてSF」なせいか、終盤はあきらかに巻きが入った駆け足で未消化の伏線を多く残し、平たくいうと打ち切りで終わりました。
師匠筋の新谷かおる譲りなのか、打ち切りに際してベストを尽くして畳む手腕もお見事でしたがそれは一旦置いておいて、「星雲賞」にも値する序盤〜終盤でありながら、最終盤での打ち切りで評価を下げたのか、特に作品完結後に完成度を重視して選定される「星雲賞」などを授賞もすることもなく。
作品の問題、作者の問題というより、出版社、漫画の編集部、引いては読者の側の経済的・時間的・精神的な余裕が徐々に失われ、ゆうきまさみが描きたい「重厚、複雑、長大、そしてSF」な作品を置いておくスペースがどんどん狭くなってきていることをあらためて感じて、同じ特徴を持つ現役作品の行く末を考えて暗澹たる思いがしました。
漫画作品を支える「雑誌連載」の環境が貧して鈍してんだなと。
転じてこの「ハコヅメ」なんですけど、18冊に及ぶ刊行がありながら単話・単冊で即効性のある面白さを重ね、重厚さはあるものの「複雑、長大、SF」とは一見正反対の性質を持つ作品で、優劣ではなく今の時代に即した漫画の作りだなあ、と。
貧して鈍した今の環境に、窮して変じて通じた作品とでもいうか。
前の話を忘れてても面白く、忘れるほどの複雑な設定もなく、いつ読んでもどこから読んでも単話で読んでも面白い、それでいて積み重ねて作品の縦軸全体を俯瞰することで潜ませていた要素が「複雑さ、長大さ」を生み出す、というのは、新規読者の敷居を下げ、既存読者を逃しにくく、復帰する読者にもフレンドリーで、この先ヒットする漫画のある種の類型・雛形なんだろうなと思います。
ゾッとするような伏線・暗喩がちょいちょい仕込まれる作品。
あんまりネタバレされて嬉しい話ではないので「ハコヅメ」今巻の内容の話はあんまりしないですが、「鉄腕」とは正反対の小柄な女性警察官が挫折を経験するお話。
いつもの「ハコヅメ」メンバーが大切なものをいくつも失い、代償として得られるものは読者から見たらただ脇役の心の平穏という、あまりにも些細な救いでしかなく、
その些細な救いのために彼女たちが奮闘し消耗するお話です。
後藤隊長の言葉を思い出します。
テーマ?社会の矛盾?メッセージ?を込めながら、たった一冊でこのエピソードを物語として構想する作者の非凡さを感じます。
今の時代、「一冊だけで(も)面白い」は強い。
「ハコヅメ」の引き立て役のように「鉄腕バーディー」の名前を出してしまったのでフォローしておくと、打ち切りで終わってなお「鉄腕バーディー」シリーズは宇宙SF警察ものの傑作です。
「鉄腕バーディー」が打ち切られずに作者の構想の本懐を遂げられていればおそらくとっくの昔に星雲賞を授賞していたと思います。
aqm.hatenablog.jp