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#葬送のフリーレン 6巻 評論(ネタバレ注意)

80年前、魔王を打ち倒し平和をもたらした伝説のパーティ。

勇者ヒンメル。戦士アイゼン。僧侶ハイター。魔法使いフリーレン。

王都に凱旋した彼らには、世界を救った功績に対する歓待と、その後の長く平和な人生が待っていた。

80年が経ち、勇者も僧侶も寿命で世を去り、戦士のドワーフも老いた中、長命種エルフの魔法使いフリーレンだけがひとり変わることなく魔法を求めて彷徨いながら、かつての仲間の死と追憶に触れていく異色のファンタジーもの。

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「葬送のフリーレン」6巻より(山田鐘人/アベツカサ)

ヒロインからしたら一瞬にすぎない間しか同じ時間を過ごせない、エルフと人間の寿命と時間感覚のギャップの哀愁を淡々と。

突然現れて各所で評判で、少年サンデーのエースの座に居座った感がありますね。

北への通行のために急遽、一級魔法使いの資格が必要となったフリーレン一行は、試験に参加。

前巻で一次試験が終わり、今巻が二次試験編。

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「葬送のフリーレン」6巻より(山田鐘人/アベツカサ)

二次試験はダンジョンの最奥への到達。合格人数制限なし、協力するのも制約なし。

ただし待ち受け襲いかかってくるのは、受験する魔法使いたちの「完全なコピー」たち。その中には当然、最強の魔法使い・フリーレン自身のコピーも含まれていた…

まあ言ったらハンター試験みたいなもので、フリーレンがこれを受験するのは言わばネテロ会長がハンター試験を受けるようなもんです。

この作品はずっとそうですが、伝説の最強魔法使いであるフリーレンによる「俺TUEEE」の極致みたいなもんで、凡百の作品においては痛快な分、下品にもなりがちな展開なんですけど、この作品の俺TUEEEEは上品というか、なんというか気品がありますね。

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「葬送のフリーレン」6巻より(山田鐘人/アベツカサ)

フリーレンが苦戦し逆転する敵に何を据えるか、という命題に、フリーレン自身のコピーを置く、というのも決して珍しいアイデアではないはずなんですけど。

読者に「俺TUEEEE」の快感を与えつつも、フリーレン自身は自分のことを過大評価したり驕ったりすることもなく「仲間と時間に恵まれただけ」と淡々と評価していて、その内面が「自身のコピー攻略」作戦にうまいこと絡んで引き立て合っていて、読んでいて気恥ずかしくないというか、「厨二病を卒業した俺TUEEEE」というか、ある意味「厨二病の完成形」というか。

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「葬送のフリーレン」6巻より(山田鐘人/アベツカサ)

1巻というか第1話の完成度があまりにも高かったので、連載の続きの話はフリーレンの余生となるが如くある意味「蛇足」になり、過去の栄光の財産で俺TUEEEする漫画になっていくんだろう、と当初は予想していたんですけど、伝説が終わって80年経った後もフリーレン自身が変わらず丁寧に誠実に与えられた生を全うし続けているように、この漫画はずっと面白くて素晴らしいです。

この手の漫画は得てして最大の財産である「エピソードゼロ」(とそのチラ見せ)が最大の切り札だったりして、今現在のエピソードはその触媒というか刺身のツマみたいな扱いになりがちなんですけど、この作品の読み味は「エピソードゼロ」よりも「今の続き」をもっと読みたくなる、稀有な作品だなあ、と思います。

こんなに過去を振り返り続けているのに、視線は常に前に向いているというか、過去から受け取ったバトンを未来に繋げようとし続けているというか。

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「葬送のフリーレン」6巻より(山田鐘人/アベツカサ)

こんなにケレン味が強いのに淡々としていて上品なのって、すごい高級食材をメインにせずに「旨味を出汁や隠し味に使いました」みたいな、なんとも贅沢な。

 

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