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#ダンジョンの中のひと 2巻 評論(ネタバレ注意)

父親の英才教育で一流のシーフに成長した少女・クレイは、3年前にダンジョンで消息を経った父親を追って日々ダンジョンに潜っていた。

冒険者ギルドの最高到達記録が地下7階なのに対して、シーフギルド所属のクレイはソロで地下9階に到達。

かつてない強敵・ミノタウロスと対峙。ミノタウロスが投じクレイが躱した巨大な戦斧がダンジョンの壁を破壊した瞬間から、しかしクレイの世界は一変する。

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「ダンジョンの中のひと」1巻より(双見酔/双葉社)

ダンジョンの秘密を知る立場となったクレイの対応をミノタウロスから引き継いだダンジョン管理人の少女・ベルは、クレイに「ダンジョンのスタッフになりませんか?」と問いかけるのだった…

という変化球ファンタジーもののお仕事漫画。

特異な設定を転がして常識人の主人公がツッコむ、基本的にコメディ進行。

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「ダンジョンの中のひと」2巻より(双見酔/双葉社)

今巻は、ダンジョンの宝箱に入れるアイテムの製作、ダンジョン運営業務の休暇日の過ごし方、ダンジョンの裏方のお食事事情、ダンジョンモンスターの採用面接、ダンジョンの模様替え、国王との協定契約の更新、などなど。

「前の国王の…」ってのを20〜30年前ぐらいに想定すると、ベルはなんらかの長命種かもしくは時間操作系の可能性が高いんですかね。

凄腕シーフ・クレイの、その雇い主となった実はダーク・シュナイダー級の魔導士でダンジョンマスターながらポンコツ生活力のベル。

ベルが「日本3大ベルたそ」に列したいぐらい可愛らしい。

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「ダンジョンの中のひと」2巻より(双見酔/双葉社)

基本的な登場人物も主要キャラ3人と少なく、舞台も一つのダンジョン内に基本的に閉じていて、決して壮大な世界観ではないですが、箱庭的というのか、設定がよく考えられています。

SFが「空想科学」なら、「空想ファンタジー」という感じ。ファンタジーは基本空想ですけど。

静かな穏やかな進行ながらよく考証された設定・世界観を見せていく大変よくできた作品、同じくRPGファンタジー世界観の「ヘテロゲニア リンギスティコ」、SFだったら「宙に参る」といった優れた作品がありますが、

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どこか似た匂いを感じます。

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「ダンジョンの中のひと」2巻より(双見酔/双葉社)

昨今はどこかから借りてきただけのようなRPGファンタジー設定の作品も多い中、設定や世界観そのものを見せていく作りの作品とはいえ、設定やその設定を転がした時に起こるシチュエーションの深掘りというか因果関係を、自分で面白おかしく膨らませるのが好きな作家さんなんだな、と。

そうなると今度はSFやファンタジーでありがちな「見て、こんなに設定考えたの!緻密でしょ!(ドヤァ」ってなりがちなところ、そういうドヤ感が全然ないというか、「主人公主観で見えない聞こえない、ストーリーにも絡まない設定は、描く必要がない」という割り切りというか。

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「ダンジョンの中のひと」2巻より(双見酔/双葉社)

よく作り込んでる割りにキャラクターを動かす必要の範囲に応じて、膨大であろう設定から小出しに、主人公が動いて見聞きできる範囲の5cmだけ奥まで描く匙加減、「設定資料集じゃなくて、エンタメとしての漫画なので」という抑制が感じられる、設定とその転がり具合から生まれるシチュエーション(ストーリー)の絡み具合が楽しく読めます。

テーマ的に王道というよりはニッチで小品な作品、絵もお話もシンプルで展開も淡々として穏やかながら、設定・考証の奥行きを感じさせつつチャーミングなキャラクターによる楽しい読み味を両立した作品で、

「原理は単純を極め、構造は複雑を極め、人は最も人らしく」

という士郎政宗の「アップルシード」の作中のセリフを思い出す感じ。

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「ダンジョンの中のひと」2巻より(双見酔/双葉社)

私にとっての「新作・オブ・ザ・イヤー・2021(読切・描き下ろし部門)」が「ルックバック」なら、

これは「新作・オブ・ザ・イヤー・2021(連載部門)」(単行本的な意味で)という感じ。

 

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