

オノ・ナツメの現作、煙草が超高級品な「ACCA」世界観、首都・バードンが作品タイトルで舞台。
リコ、ラズ、ハート、エルモの4人の男は、それぞれ犯した罪でヤッカラの刑務所に収容されていたが、国王代替わりの恩赦・減刑で刑期が明け、4人で煙草店を営むべく揃ってバードンへ。前科持ちのハンデを抱えつつ煙草店を開業。

「BADON」5巻より(オノ・ナツメ/スクウェア・エニックス)
「二度と悪事にもサツにも関わらない人生」を夢見る男たちの商売繁盛記にはならず、良かれ悪しかれ罪を犯した過去がつきまとうハードボイルド風味。
既刊に続き、今巻も単巻で中編を1エピソード。読後感が良く、一冊の満足度がとても高い。
今巻は初めてかな? 店の電話番を買って出るラズにスポットが当たったお話。
ヤッカラから上京して4人と1人が首都バードンで高級煙草店「プリミエラ」を営み初めてもうすぐ1年。

「BADON」5巻より(オノ・ナツメ/スクウェア・エニックス)
先日の誘拐事件が発端で、リリーの年齢が実は12歳ではなく17歳であることが明らかになりましたが、心無い闖入者によってリリーの出生の秘密がさらに明らかに。それはラズが過去に犯した罪と、それに伴って起きた悲しい出来事に深く関わっていました。
動揺したラズは…
という、主人公たち5人の人間関係が揺らぐお話。前巻のように大事件が起こる話ではないんですけど、しみじみと良いエピソード。プリミエラの仲間に自分も入れてもらいたくなりますね。

「BADON」5巻より(オノ・ナツメ/スクウェア・エニックス)
以前にこの作品について「罪と赦しをテーマにしたハードボイルド風味の〜」とか書いた覚えがあります。
前科を持ち服役を終えた彼らを赦さなければいけないのはもしかしたら社会や他人じゃなく彼ら自身かもしれない、というのは置いておいても、これまで基本的に「赦される」のは主人公の彼らの側でしたが、今巻で語られる話では彼らの一人・ラズは「赦す・赦さない」の側に回ります。
人質立て篭もり事件現場で逃げる人質を追う犯人、という局面で犯人を射殺する判断は警官として止むを得ないように思え、「赦す」といってもラズの怒りは社会的に見ると理不尽な逆恨みのようなもので、また恨みの対象も既に死んでいてその怒りは行き場がなく、身代わりのようにリリーという係累の少女がそこに置かれているだけです。
ラズがこのやり場のない怒り・やり場のない悲しみを飲み込めるのか、昇華できるのか。ある意味で前科そのものよりも重いかもしれない過去のわだかまり。
私を含めた多くの人間が怒りや悲しみの甘美な呪縛を、しばしば超克できずに囚われ耽溺して人生を失敗します。ラズの場合は彼女の「自業自得」として処理されたであろう非業の死を、復讐もしくは正規の行政・司法手続きなどで決着をつける機会さえ未来永劫やってきません。
「赦す」には時間と、慰めあるいは余裕や度量のようなものが必要で、一部の人間を除いてほとんどの人間はそれを持ち合わせておらず、ましてやそのやり場がないとなれば尚更です。

「BADON」5巻より(オノ・ナツメ/スクウェア・エニックス)
いいセリフだなあ、コレ…
今回示される「慰めあるいは余裕や度量のようなもの」は、「夢」と「仲間」です。
あるいは罪を背負った故の孤独と「戻れなさ」が彼らをそうさせたようにも思います。
少年漫画のようにベタで陳腐なキーワードなのにチープには見えないのは、彼らの「戻れなさ」、後悔や葛藤、人生の苦さが真に迫って見えて、だからこそその果てにようやく手に入れかけているそれの貴重さを感じさせる描写に由来するように思います。
俺もうちょっと上手に言葉にできないものかな。もどかしい。
プリミエラの仲間に自分も入れてもらいたくなります。本当に。
ルックスはおじさんたちのハードボイルド風味ですが、ここに描かれているのは後悔と追憶に耽溺するナルシスティックなダンディズムではなく、彼らにとっての二度目のがむしゃらな青春なのかもしれない、と思ったりします。
あと、偉そうなことを言える立場ではないんですが、ハートは女心を少しは勉強していただきたい。あ〜る君並みの朴念仁だぞお前w
aqm.hatenablog.jp
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