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#GROUNDLESS 10巻 -君殺す事なかりせば- 評論(ネタバレ注意)

ラジオや映画、自動小銃はあるけど、TVやネットはなく、空軍はプロペラ機ぐらいの時代設定、島国アリストリアが舞台の架空戦記。

 

大陸政府の支配下で体制側である中央合議会とその正規軍の「島軍」、これに反旗を翻した「解放市民軍」による内戦。都市防衛を第一義とするも島軍に従属する「自警団」。

『GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば-』10巻より(影待蛍太/双葉社)

ヒロインは、島軍と解放市民軍の間で武器商の夫を殺され子を失い、復讐を誓う隻眼の未亡人。秘蔵の狙撃銃で自警団に参加し開花した天才狙撃手。民族間の断絶から終結が見えない内戦の中で、状況に流されながら生き残るために戦うヒロインたち。

見せ場はヒロインの狙撃シーン。局地戦を舞台に劣勢の戦局をチート気味にひっくり返すカタルシスとともに、高性能スナイパーの怖ろしさ、残酷さ、罪深さ、「人間に向けて銃を撃ったら人間が死ぬ」という当たり前のことをこれでもかと描写。

『GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば-』10巻より(影待蛍太/双葉社)

前巻のあとがきによると、編集担当と折り合わず担当を外れてもらって、双葉社の場を借りての編集なしの自主制作のような制作体制になって2冊目。

ブレイクした1巻が、もともと自主制作だった作品を編集担当が見初めて、という経緯でしたっけか?

もともとのやり方に戻っただけとも言えますが、編集担当がついたり外れたりした経緯の結果、編集担当がいた方が面白いのか、いない方が面白いのか、図らずも作品に編集担当が関わるメリット・デメリットの試金石みたいな作品になっちゃいました。

大きな作戦に勝利し、各地を残党狩りで転戦するようなフェースに移行したダシア自警団。

『GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば-』10巻より(影待蛍太/双葉社)

今巻は、過去の敗戦から「文民統制」「専守防衛」「兵器の規制」を貫くことにした地区(実質『国』)の話。

同盟として教導任務でアイアンクラウン自治区を訪れたダシア自警団は、あまりにも「政治的配慮」を前提にした自治区防衛隊の訓練に唖然とする。

そんな中、テロリストによる人質立てこもり事件が発生。

政治的な配慮や規制から数々の制約を受ける自治区防衛隊はテロリストを前に全滅、自治区長は居合わせたダシア自警団に解決を依頼するが…

『GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば-』10巻より(影待蛍太/双葉社)

要するに戦後の日本をモデルに、「平和ボケ」と「文民の腐敗」をテーマをしたエピソードですが、描写の端々を日本に寄せすぎた結果、読んでるこっちの集中力が削がれてスベッてるように思いました。

また政治家をいかにも陳腐な悪役に描きすぎて、エピソード全体の印象が「スカッとジャパン」的というか、ちょっと安っぽくなってしまいました。

『GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば-』10巻より(影待蛍太/双葉社)

作者の反省の弁です。

日本社会に対する風刺や揶揄・政治的主張が描きたかったのか、手近なモデルでエンタメが描きたかっただけなのか、よくわからんで没頭できんかった。

中途半端に日本に寄せずに独立したテーマとして完全フィクションを貫くか、いっそ日本を舞台にした別作品でやったバージョンで読みたかったですね。

『GROUNDLESS : 10-君殺す事なかりせば-』10巻より(影待蛍太/双葉社)

「文民統制の腐敗」自体は面白いテーマですし、相変わらず戦闘描写えげつなさは圧巻で、カタルシスもあっただけに、ちょっともったいない感じでした。

編集不在の影響は自分にはよくわからないですけど、こう言っちゃなんですけど、もともと巻(エピソード)ごとの当たり外れの激しい作品なので、引き続き次巻に期待。

 

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