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#紛争でしたら八田まで 9巻 評論(ネタバレ注意)

表紙のメガネ美女、「地政学リスクコンサルタント」の八田百合がクライアントの依頼を受けて世界を股にかけて紛争を渡り歩き、地政学の知識と思考と調査能力と護身術で解決していく、美女!メガネ!インテリ!ハードボイルド!ワールドワイド!なかっけーお仕事もの。

ぼっちでメガネで日系で手ぶらのココ・へクマティアル、という感じ。

下品な方の出羽守っぽいというか、ちょっと「ブラック・ラグーン」みたいな洋画吹き替えワールドな感じ。

「紛争でしたら八田まで」9巻より(田素弘/講談社)

エピソードが巻跨ぎになって「前巻の〜編の続きから」で始まることが多い作品ですが、今巻はキリよく新エピソードから始まります。

箸休め的な、ホーム・ロンドンで裕福な友人に浮気調査を頼まれる単話。


シリーズエピソード、マリ編。

元・宗主国のフランスを中心に先進国かつ強豪国のリーグで活躍し母国の英雄となって帰国した元サッカー選手を襲うテロ騒動。

漫画読んでるだけでも『エリア88』の昔から、フランスはアフリカ周りに植民地いっぱい抱えすぎた過去があって、そうした過去がフランスの国力や国際的な立場を支えてきた反面、それらの国の独立後も元・宗主国と元・植民地国の双方に火種と軋轢を残してしまっている様子がうかがえますね。

「紛争でしたら八田まで」9巻より(田素弘/講談社)

サッカーを観ているだけでも、フランスとアフリカの国々の間で抱える移民問題を中心とした軋轢は見てとれますし、フランスを中心に活躍した一流サッカー選手が選手がフランスとアフリカの国籍選択を迫られるシーンも、母国の英雄・大富豪を経て政治家に転身することも、特に珍しくありません。

で、政情が不安定なところに宗教ベースのテロ組織の浸透、と。そういうエピソード。

「紛争でしたら八田まで」9巻より(田素弘/講談社)

マリ編に続いて地続きでフランス編。

前述のサッカー選手の元妻への離婚調整。ストーリーも政情もマリ編の対になっていて、フランスが抱える移民問題を中心に。

エピソードヒロインがいかにも鼻持ちならなそうな経歴と立場の富豪令嬢ですけど、やー、この人、いいですね。

「悪役令嬢」もの顔負けの「高飛車デレ」とでもいうのか。


作品の売りは、舞台となる各国の「相」を解説しベースとしながらそれを利用してリアリティの高い中編エピソードを読ませる、という作品なんで、国々が抱える課題と解決策を八田の活躍を通してわかりやすく読者に提示することがキモなんですけど、「最後に握手する」エピソードキャラの置き方が良いですよね。

ケーススタディのための駒と言えばそうなんですけど、どこか人情噺的というか。

「紛争でしたら八田まで」9巻より(田素弘/講談社)

解決困難な世情をリアルに映すにあたって、ビターエンドやバッドエンドを選んでもバチは当たらないと思うんですけど、ほぼ必ずちょっとだけ苦いハッピーエンドを用意する作品。

ハートが柔らかいハードボイルドとでもいうか。

最終的にはシステムの壁を越えて人間同士が共通の利益に向かって融和して将来への希望への布石とする、という、物語としては甘っちょろいワンパターンの繰り返しなんですけど、「だが、それがいい」ってやつですよね。

「漫画だからそれでいい」ではなくて、現実においても結局は、相争う人間同士の間の握手の手伝いをするためのものが知性であって、ハッピーエンドに向かいたいなら本質的にそれしかねえんだよな、っていう。

そういう思想というのか芯というのかメッセージのようなものが感じられて、甘っちょろいワンパターンが少し心地よいです。

「紛争でしたら八田まで」9巻より(田素弘/講談社)

いいシーンだなあコレ。

弱さでもあり強さでもあり、人間に本来備わっている機能として、もっと大事にされていいはずの感情。

国際情勢は未だみんなが銃を手放すまでには至らず、私も当事者に向かって「銃を手放せ」なんて簡単には言えませんし、平和な社会と同じく罪には裁きが必要ですが、どこかで銃を置いて握手したい気持ちと知恵を絞ることは諦めずに、現実も少しずつなんとかしていきたいものですね。

 

 

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