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#海が走るエンドロール 3巻 評論(ネタバレ注意)

65歳にして連れ添った夫を亡くした、うみ子。

夫とデートで行った映画館の記憶に触発されて20年ぐらいぶりに映画館を訪れる。上映中に昔からの癖で客席を振り返って見回すと、先ほどロビーで肩が当たって挨拶した美しい若者と目が合ってしまう。その若者は名を「海(かい)」という実は男性で、話すうちにうみ子に「あなたは映画を作る側では?」と指摘する。

海の言葉で「映画を撮りたい」気持ちに火がついたうみ子は、海が学ぶ美大の映像科を受験して入学。かくして齢65のうみ子の、映画人生が始まった…

『海が走るエンドロール』3巻より(たらちねジョン/秋田書店)

という、老境のご婦人を主人公に置いた青春もの。

今巻で気づいたけど、うみ子はちょうど自分の両親と同じ団塊世代かう。うちの母が今から映画監督を目指すようなものか、と実感しました。

主人公に老境のご婦人を置いていて必ずしも読者層ターゲットが少女なのかどうかはわからないものの、ヒロインが「王子」と「自分の運命」とに同時に運命的・衝動的に出会う導入、多用されるヒロインのモノローグ、ガワは違っても骨格自体は純然たる少女漫画であるように、自分には見えます。

「『65歳で映画監督を志して美大入学』で起こりそうなこと」を奇を衒わずに丁寧に描写。

『海が走るエンドロール』3巻より(たらちねジョン/秋田書店)

 

高尚そうなテーマ、俗っぽいキャラ萌え、擬似恋愛的にも見える人間関係を織り交ぜつつ、地に足のついた丁寧な展開と描写で、いろんな切り口で楽しめそうな作品。

今巻は、うみ子の大学入学から半年。海に注目するインフルエンサーでカリスマYoutuberのsoraが入学。

商業エンタメの世界で成功することにこだわるsoraの価値観は、海を、そしてうみ子を揺さぶる。

教授の勧めで映画祭への出展を目指し、また教授の勧めで映像制作のバイトを始めるうみ子。

『海が走るエンドロール』3巻より(たらちねジョン/秋田書店)

そして海は、soraとの絡みなどから芸能業界から注目され芸能事務所に所属。俳優の立場から一足早く映画制作の現場に潜り込むこととなった…

映画撮るの、お金かかるって言うしねえ…制作の現場と人脈を知ってる強みもあって、俳優上がりで監督として映画を撮る人、珍しくないというか黄金ルートのような気もしますね。

うみ子ですが、なんだかんだ言って教授やsoraなど、審美眼と発言力のあるキーマンに才能が認められつつあり、また「65歳から映画監督を志す」という物語性のアドバンテージも浮上しつつある描写がされます。

『海が走るエンドロール』3巻より(たらちねジョン/秋田書店)

コンプレックスというか、ヒロインの内省的なモノローグが多いんですけど、現にこの漫画作品が話題になっているように「65歳から映画監督を志す」という物語には実際に話題性というか、それ自体にコンテンツ性がありますから、いざ映画制作の資金集めの段になったら、ルックスに優れる海くん以上に有利に働きそうな気もします。

soraは実際的で手段を選ばない叩き上げ筋で、芸術家肌で内向的な主人公たちの心をざわつかせる価値観ブレイカーではありますけど、

『海が走るエンドロール』3巻より(たらちねジョン/秋田書店)

ズバズバ言いつつデレる側面もあって、ツンデレならぬズバデレ系とでも言うか、あとあと我々読者も「コイツがいてよかった」と思うキーマンになっていきそうな良いキャラですね。

クリエイターものとしては作中作、主人公たちが制作するコンテンツがあまり誌面に露出しない漫画作品で、「エンタメ路線で楽しみや癒しを与える作品を創りたい」とするうみ子はまだしも、求道的でアート肌の海くんがこれだけ情熱を捧げて一体どんな作品を創りたいのか、というところにまだデッカい穴が空いたままの印象はあります。

うみ子を主人公にした、この漫画作品そのものみたいな映画を撮るんかな?

 

 

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