動物たちと三頭身の小人(こびと)たちが、互いに言葉を通じ合って社会を形成して暮らす、童話のような世界観。
で、一緒に暮らす2人の女の子を主人公にした日常もの。アニメ化済み。
童話やお伽話に喩えるには生活感がありすぎるけど、その生活感の醸し出す詩情、特に手慣れた料理と食事風景の描写は特筆もの。
前巻からきっちり1年後の11巻。
変わらないようでいて、少しづつ変わっていく日常、でもその中で変わらないもの。
日常ものの物語の不在を補って余り在る、一コマ一コマがまるで絵葉書のように美しく、想像力を掻き立てられる背景。
いいえ、「物語の不在」なんてとんでもない。
見落として忘れてしまうそうな小さな物語の連なりや積み重ねが、彼女たちの日常を形作っている。
たぶん、私たちの日常も。
大工としてハクメイが移籍した先の甲羅木組での初仕事、それは建築というよりまるで考古学のような。「見習いの初仕事」、「曲木と助っ人」。
ミコチが髪型を姫カットロングヘアーにこだわり始めたきっかけ。「髪とおまじない」。
歌姫・コンジュに一夜限りのワンマン・リサイタル、コンジュ会のオファー。コンジュは舞台の準備の協力を馴染みの仲間たちに依頼。舞台衣装を頼まれたこだわり派のミコチの悪戦苦闘の1週間が始まった。「準備の一週間」、「こだわりの舞台衣装」。
ジャダが旧友からもらい、手放してしまった3枚の演劇のチケット。ハクメイとミコチを加えた3人は幻のレアチケットを求めて西へ東へ。「意地とチケット」。
イタチのアサトは失恋の腹いせに、飲み屋で出会ったハクメイにイワシの悪口を吹き込もうとするがなかなか上手くいかない。「酒場と戯れ言」。
ミコチがひょんなことからゲットしてきたぐい呑みに取り憑いているカケスの幽霊。「ぐい呑みの鳥」。
ミコチの行きつけの古着屋には朝から晩までいろんな客がやってくる。「古着屋の一日」。
過去の特典イラストやおまけ漫画を収録。「はくみこのいろいろ2」。
「珠玉の」という形容がこれほど似合う漫画作品もないでしょう、珠玉のエピソード群。
漫画というより極めて強まった絵本と言うべきか。
描かれた画面の情報量、それを支える技巧と作業量、細部にまで張り巡らされた空想力。
謎が謎を呼ぶ大事件、胸がときめく恋、抱腹絶倒のギャグ、血湧き肉躍るバトルやアクション、もちろんエロも殺しも、およそ売れ線とされる要素なんか何もなく、暮らしとその中のちょっとした事件や小さな冒険が描かれているだけの漫画が、こんなに面白く、こんなに美しい。
私たちが暮らす世界も十分美しいけど、神様もあともう少しだけ樫木祐人のような感性を持ち合わせてくれていればよかったのに。
あるいは我々人間を、あともう少しだけハクメイ、ミコチたちのような存在に創ってくれていれば。
こんなの、たった数百円で買って読めちゃって、本当にいいのかな。
aqm.hatenablog.jp