妻を亡くし、70歳を迎え引退することにした庭師の親方・誠(せい)と、30歳を迎え同年代の婚約者との婚約を解消した図書館司書・眞(まこ)。
2人は居酒屋の隣の座敷でそれぞれ引退と結婚を祝われていたが、誠は引退の撤回を、眞は婚約の解消を、それぞれ周囲に言い出せずに「一巻の終わり」を迎えてしまう。
言い出せないまま不本意に祝われた主役同士、2軒目に飲みに行くことになったが…で始まる、年の差40歳の大人のラブロマンス。
の、つもりで読んでいたんですが。
今巻で完結。
なんかここ2日ほど、読んでる作品の一部が怒涛の完結ラッシュなの、なんなの。
歳の差ラブロマンスを演じるであろう(と思っていた)主役2人をめぐる脇役たち、に次々とスポットがあたり、人間関係が絡み合って、気がつけば主役2人はその群像劇を繋ぐハブというか、観測者になっていたような印象。
かと言って、むやみに尺を稼いで連載を長く延命させるための群像劇化ではなく、1巻の早い段階から仕込まれていて、またそれぞれの脇役たちの描写や関係の深掘りがそれぞれに含蓄に富んでいて、逐一共感できるものでした。
それぞれ主人公の異なる短編集だったものを相互に絡み合わせて1本の長編にまとめた作品を読んだような、「なんか主人公が沢山いたというか、全員が主人公だったな…」という不思議な感覚。
路線変更とかじゃなくて、最初っからこういう作品を描こうとしていたっぽい。
主役2人のラブロマンス未満も好きなシーンは複数あるものの、恋愛もの的に進展したとも言えず、最初から恋愛・性愛として描く気はなかったっぽく感じました。
でも、作者が最後まで「恋愛」のラベルを敢えて貼らなかったのであろう、誠と眞のどこか浮世離れしたおっとりとした淡い関係の描写、良いんですよね。
ディティールも各エピソードも優しいのにキリッとしていて好きなんですけど、でも作品の全体像を俯瞰すると印象がとてもふんわりしていてこう…
現実の自分の人生において関わりが比較的浅い人々のそれぞれに、人生のドラマや紆余曲折、挫折や再起、別れや再会が、自分から見えないだけで自分と等しく在ろうことを久しぶりに思い起こして、優しい話なのになんかちょっと背筋がゾワっとしました。
道往く人々の一人一人の人生とその相互の絡み合いに逐一感情移入して、キャパを超えて脳や心がパンクする自分を、想像してしまう感覚。
ちょっと間を開けて、読む角度を少し変えて、再読してみよう。
aqm.hatenablog.jp